恋愛・結婚

サブカルおじさんの罪と罰――鈴木涼美の「おじさんメモリアル」

安全圏から出ないで燥ぐウザさ

 そして彼らのわざわざ造語を作ってまでしたがるモテアピールが極めてノイジーなのは、彼らは結局自分の庭からは出ないからである。彼らの恋女ちゃんや愛奴ちゃんたちは、絨毯よりはおめかししているものの、彼らの「イケそう」な範疇を出るものではない。なんか、カラオケでフィンガー5とか歌っていそうなクラスタである。これで彼らがカルチャーを武器に歌舞伎町のナンバー1嬢を抱く度胸があるならモテアピールを聞いてやっても良いが、カーテンやモップに包まっているうちは、奴らの話は聞くに値しない。需要のある場所に安住し、自分がそもそもスペックが低いが故にその武器を身につけたことも忘れ、「一般」というもっと強固な狩場に出て現実を知ることを拒む。歌舞伎町でのみ、なぜかタテガミみたいなホストの前髪がもてはやされるのと、全く同じ構造だ。  屁理屈が大好きな彼らはそういった指摘に対し、「歌舞伎のバカなキャバ嬢にも、丸の内のつまんないOLにも興味ないからなぁ(笑)」などと、別に「イケない」わけじゃないと言わんばかりに自らを正当化し続ける。で、「同い年の男の子のウェイウェイした感じはちょっと苦手」なんて言ってるかわい子ちゃんたちに、「モコ山さんの話、本当面白い」なんて言われて鼻の下を伸ばす。話の面白さなんて、かっこよさを補うものであって、ないかっこよさを生み出すわけでもないのに。  サブディジはこうも言っている。「落書きは無力の表現であり、ある種の力-ものを醜くする力-の表現でもある」。モコ山が童貞時代に作っていた「映画バカのためのラング」という面白みのかけらもないタイトルの同人誌を思い出し、さらに彼オリジナルの「アンコ」という謎の動物の絵に添えられた「スタイルは戦い」という落書きを思い出し、彼にふりかかるべき些細な不幸を心から願った。
鈴木涼美

量産型サブカルおじさんなんて、駅ビルの中のヴィレヴァンほどの存在意義もない!(涼美談)

【鈴木涼美(すずき・すずみ)】 83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。09年、東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。著書に「『AV女優』の社会学」(青土社)、「身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論」(幻冬舎文庫)、「愛と子宮に花束を 夜のオネエサンの母娘論」(幻冬舎)。本連載をまとめた「おじさんメモリアル」が好評発売中! 12月6日「オンナの値段」(講談社)発売予定。LINEブログはhttp://lineblog.me/suzukisuzumi/ (撮影/福本邦洋 イラスト/ただりえこ)
’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中

おじさんメモリアル

哀しき男たちの欲望とニッポンの20年。巻末に高橋源一郎氏との対談を収録

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