雑学

チケット1枚、本1冊売ることがどれほど大変なことか――演出家・作家 鴻上尚史が思うこと



人生を描くのが作家、経済を知らずに何が書ける


 2万人の観客を想定している作品でした。チケットはあと4千枚ほど残っていました。それでも、プロデューサーは、17枚という数字を本当に嬉しそうに言いました。

 ああ、この人は信用できると、僕は思いました。大きな会社の社員プロデューサーは、極端な言い方をすれば、チケットが売れなくても首になることはありません。ボーナスが減ったり、別の部署に異動になるかもしれませんが、正社員であるかぎり、首にはなりません。

 何千万、何億という赤字を出せば別でしょうが、大きな会社は、たいてい、他に黒字部分を抱えていて、数十万や数百万ぐらいの赤字なら、それなりに反省して終りになります。

 でも、小さな会社だと簡単に潰れます。サードステージは、数百万の赤字が出ると、僕が働きます。大きな声では言えませんが、冒険的な予算組をして、『舞台版 ドラえもん』みたいにン千万の赤字が出ると、僕は馬車馬のように自分に鞭打って講演会だのいろいろと働き続けます。

 チケット1枚が具体的に自分の人生とつながっているのです。

 でも、じつは、僕はこの生活が嫌いではありません。人生を描くのが作家の仕事で、これはまさに人生の重要課題の一つだと思っているからです。経済問題に直面せずに、人生の何が描けるかと思っているのです。 公演が近づくと、毎週、チケットの売り上げ枚数の報告がプレイガイドから来ます。その数字に一喜一憂しながら、30年生きてきました。

 でも、作家だけをやっている人は、アマゾンの1時間ごとに変わる順位を見るのはハラハラするだろうなと思います。じつに新鮮な体験だと思うのです。

 そのアマゾンが、ここしばらく、調子が悪いみたいです。新刊でも、いきなり「在庫なし。入荷時期未定」なんて表示になったりするようです。『不死身の特攻兵』も、講談社の販売さんが本を入れても、表示が「一、二カ月待ち」となっていました。もう、作家殺しですね。

 『青空に飛ぶ』の方は、単純に在庫が切れていたようです。僕は、チケット1枚と同じように本1冊を考えるので、もう、ヤキモキします。

 正社員と違って、作家はいつでも首になると、腹を括っているのです

※「ドン・キホーテのピアス」は週刊SPA!にて好評連載中

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不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか

1944年11月の第一回の特攻作戦から、9回の出撃。陸軍参謀に「必ず死んでこい!」と言われながら、命令に背き、生還を果たした特攻兵がいた。


この世界はあなたが思うよりはるかに広い

本連載をまとめた「ドン・キホーテのピアス」第17巻。鴻上による、この国のゆるやかな、でも確実な変化の記録




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