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“上手に生きられない人たち”を救うのが青春物語――現役書店員3人が胸を熱くする本とは?

“強い男”に憧れた少年時代

市川:僕は男の青春小説の定義って“間違ったヒロイズム”だと思っていて。盗んだバイクで走りだすのも15歳だし、世界を救いにいく勇者もだいたい16歳くらいじゃないですか。みたいなところで、三島由紀夫の『美しい星』を……。 ●三島由紀夫『美しい星』(新潮社) <「自分たちは地球とは別の天体から飛来した宇宙人なのだ」という意識に目覚めた一家を中心に、核戦争の脅威や世界滅亡の不安を描いた三島作品では異色のSF思想小説。「晩年の三島由紀夫を象徴する作品です」(市川)> 花本:三島もまた童貞感ありますもんね~。 伊野尾:これはいくつくらいで読んだの? 市川:高校生のときですかね。中二病的な感じで、純文学を読もうと思い立って。 花本:三島に傾倒しちゃったわけだ。 市川:してました。この小説の主人公は52歳無職の男性なんですけど、自分のことを地球を救いにきた宇宙人だと思い込んでるんです。そうしたら「自分は地球を滅ぼしにきた宇宙人だ」って思い込んでいる中年の塾講師とかち合ってしまって、二人で延々と「人類とは何か」という壮大なテーマで語り合うんですよ。それがすごく青春っぽい。学生時代とかって、「なんかすごいことやりたいよな」みたいな生産性のない話をめちゃめちゃしたりするじゃないですか。それを中年のおじさんがやっているっていう。 伊野尾:年齢に関係なく、「実は俺はすごいんだ、いつか俺はやってやるぜ」って思い続けているのが青春なんですかね。 花本:別に思春期の少年が主人公じゃなくてもいい。 伊野尾:10代の頃って、常に恐怖する対象がいませんでした? 花本:いたいた! 近所のヤンキーだったり学校の先輩だったりね。 市川:圧倒的な暴力性ですよね。友達とケンカして、お兄ちゃんとか連れてこられた日にはもう……。 伊野尾:いい青春小説って、“逃れ難い恐怖の対象がいて、それをなんとかして打倒したいという気持ち”が話を進めるキーになるような。ロバート・マキャモンの『少年時代』は、’60年代アメリカの片田舎が舞台で、主人公は12歳の少年。その時代の子供ってとにかく情報がないから、あらゆるものに恐怖と不安をおぼえるわけです。町外れに不審な女がいたりすると、「あいつは魔女に違いない」って思ったり。 ●ロバート・マキャモン『少年時代』(ヴィレッジブックス) <アメリカ南部の田舎町で暮らす少年コーリーはある朝、父とともに不可思議な殺人事件を目撃してしまう。少年時代のきらめく日々を、ときにサスペンシブに、ときにファンタジックに描いた名作> 市川:その感じわかる~! 伊野尾:殺人事件が起きたりして、全体的に『スタンド・バイ・ミー』っぽい。謎解きの要素もあるけど、少年の成長物語としてすごく面白いんですよ。
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“読者の人生に影響を与えてしまう”のが青春小説
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死にたい夜にかぎって

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