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ボブ・バックランド ニューヨークの“若き帝王”――フミ斎藤のプロレス講座別冊レジェンド100<第46話>

 バックランドの“スター誕生”のシーンは、ひじょうにチ密にプランニングされた長編ドラマになっていた。  まず、WWEヘビー級王座はサンマルチノ――首の負傷から復帰――から“スーパースター”ビリー・グラハムの手に渡った(1977年4月30日=ボルティモア)。  バックランドは、グラハムとほぼ同時にニューヨーク・マットにデビューし、グラハムとの運命のタイトルマッチが実現するまでの10カ月間、“隔離”されたスペースで4回だけマディソン・スクウェア・ガーデン定期戦に出場した。  新しい主人公の出現を予感させる“予告編”は、バックランド&ピーター・メイビア&ラリー・ズビスコ&トニー・ガレア対スタン・スタージャック&バロン・シクルナ&“プロフェッサー”トール・タナカ&ミスター・フジの8人タッグ・イリミネーション・マッチだった(1978年1月23日=ガーデン定期戦)。  ベビーフェース・サイドの3人があっさり失格し、リング上はバックランドとベテラン・ヒール4人のハンディキャップ・マッチ的なシチュエーションになった。  バックランドはお得意のアトミックドロップで4人からたてつづけにフォール勝ちを奪った。  それから10数分後、バックランドはこんどはメインイベントのグラハム対ミル・マスカラスのタイトルマッチにマスカラスのセコンドとして登場し、グラハムと番外戦を演じた。  試合終了後、リングアナウンサーが次回ガーデン定期戦のメインとしてグラハム対バックランドのWWEヘビー級選手権をアナウンスした瞬間、そこにいたニューヨークの観客は“主役交代”を確信した。  そして、それから1カ月後、バックランドはグラハムを下してWWEヘビー級王者となった(1978年2月20日=ガーデン定期戦)。  バックランドは、ガーデン定期戦では合計67公演のメインイベントをつとめ、そのうち42公演を完全ソールドアウトにした。  日本におけるライバルは、やはりアントニオ猪木ということになるのだろう。  猪木は、通算4度めの挑戦でバックランドを破り日本人として初のWWEヘビー級王者となったが(1979年=昭和54年11月30日、徳島)、王座初防衛戦での試合結果を不服としてベルトを返上(同12月6日=東京)。  それから11日後、ガーデン定期戦(同12月17日)でバックランドがボビー・ダンカンを下し同王座に“復帰”した。この一戦は、現地では“テキサス・デスマッチ”としてアナウンスされ、日本では“王座決定戦”として報じられた。  この日、猪木はグレート・ハッサン(アイアン・シーク)を相手のWWE世界マーシャルアーツ王座の防衛戦をおこなった。東京からニューヨークへ舞台を移しての猪木とバックランドの完全決着戦は実現しなかった。  通算5年10カ月間の長期にわたりベルトを保持したバックランドは、ニューヨークをはじめとする東海岸エリアだけでなくカナダ・トロント、セントルイス、ロサンゼルス、メキシコ、日本(新日本プロレス)をツアー。  NWA世界王者レイス(1980年9月22日=ガーデン、1980年11月7日=セントルイス)、AWA世界王者ニック・ボックウィンクル(1979年3月25日=トロント)、NWA世界王者リック・フレアー(1982年7月4日=ジョージア州アトランタ)ら“別派”の世界チャンピオンともダブル・タイトルマッチをおこなった。  王座転落劇はひじょうに唐突にやって来た。ビンス・マクマホンが父マクマホン・シニアからWWFをテイクオーバーし、全米マーケット進出プロジェクトに着手した直後、バックランドはアイアン・シークに敗れチャンピオンベルトを失った(1983年12月26日=ガーデン定期戦)。  ビンスはバックランドを“失脚”させ、ハルク・ホーガンを新しい時代の主人公に起用した。  スポーツ・エンターテインメント路線の確立、まったく新しいコンセプトのメディア戦略をもくろむビンスにとって、1970年代後半から1980年代前半のアメリカのレスリング・シーンを代表するスーパースターだったバックランドはすでに“戦力外”だった。
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続“バックランド物語”
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