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小説『孤独のグルメ』望郷編――第7回「災害テロップの濁流とともにのみ込んだ無力なチャーハン」

久住昌之氏の原作と、谷口ジロー氏の静謐な作画の組み合わせで描かれるひとりめしの楽しみが共感を集め、現在累計80万部を突破した人気漫画『孤独のグルメ』。ドラマ『孤独のグルメ Season7』も好評のうちに先日最終回を迎えた。日刊SPA!では『孤独のグルメ 望郷篇』と題して、小説篇を連載中(隔週金曜日更新予定)。執筆は、『孤独のグルメ』の初代担当編集者である壹岐真也氏。漫画やドラマとはまた一味違う五郎の哀愁を味わってみてほしい。

【孤独のグルメ 望郷篇 第7回「災害テロップの濁流とともにのみ込んだ無力なチャーハン」 壹岐真也】


写真/滝本淳助(@takimotonosekai)

夜中までかかってようやく見積もりを仕上げた。
ロングピースを一服。これが堪らない。
でも、喫煙組はどんどん肩身がせまくなる。
〈マナーからルールへ〉か。
それ、逆でショ。
ルールからマナーへ、が大人なんじゃないの。
住みにくいな。
今度また値上げもするらしいし、お店とか外でも全然吸えなくなるらしい。
ワールドカップの準決勝はみない。
テレビの音を消して「靭猿(うつぼざる)」の中継をみていると、画面の左上に西日本の記録的豪雨のテロップが次々に出されくる。
土砂災害警戒情報で避難勧告や避難指示、大雨警戒警報と次々と映し出される。いくつもの河川で洪水予報が出されている。氾濫警戒。西から東へと範囲をひろげてくる。数十年ぶりの、過去にない豪雨。
24時間雨量400ml超。1か月の平均雨量の2~3倍。
大雨で14人死亡。7人心肺停止。45人安否不明。
〈これまでに経験したことのない危険な状態〉
チャンネルをBSに替えると金髪のお笑い芸人がベルギーの田舎町を訪れて、ホワイトアスパラガスとタルタルステーキに舌づつみをうっている。
オレはまたチャンネルを地上波のNHKに戻す。音声を消す。

住民数人が、流れついた流木、瓦礫を片づけてる。泥水は車のタイヤを沈め、店舗のドアを割って中に流れ込んでいる。
住宅街が浸水して一階の窓の半分くらい泥水に浸っている。
水没した家屋。町の一面が完全に泥濘に沈んでいる。道路が陥没。放置された軽トラック。上流から押し流され大破した車。
流れ込んだ土砂が住宅の屋根まで埋めている。まだ人が埋まっているらしい。
家の前を人が流されていった。
二階の窓まで泥色の水に浸かっている。完全に冠水している。

あちらこちらで次々に堤防が決壊している。
鉄橋も崩れて流された。
こちらは住宅の屋根付近まで沈んでいる
氾濫危険水位を越えた河川の映像。ドロドロの濁流。家の土台が泥水で抉られている。屋根に上がってテレビ局のヘリコプターにシャツやタオルを振り救出を求める人。
画面下にテロップで映るいろいろなコトバ。
「……朝起きたら田んぼに土砂水がはいって。どうしようもない、こういう土地柄だから」。
「家2棟倒壊全壊。三人不明」
「重大な危険が差し迫った異常事態です」
「広範囲で浸水・土砂災害。救援活動続く」
「記録的短時間大雨記録」

土砂災害警戒警報・特別大雨警報。河の氾濫・水害。緊急特別警報。
避難の際の注意点。避難先。避難経路。

オレは事務所でパックの米飯とツナ缶、インスタント味噌汁(即席市場No.1の〈料亭の味〉だ)で夜食を食べている。ツナにはマヨネーズと醤油。それだけ。テレビの中継、どんどん惨澹たる事態をつたえてくる。
オレは、こんな日にも夜食か朝食かも判らない平凡なメシを独りでかきこんでる。仕方がない。今のオレには、自分の空腹を癒すことしかできないじゃないか。

だめでせう
とまりませんな
がぶがぶ湧いてゐるですからな

あなたの方からみたらずゐぶんさんたんたるけしきでせうが
わたくしから見えるのは
やっぱりきれいな青ぞらと
すきとほった風ばかりです。
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大雨災害の翌日、東京は青空がひろがった。

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