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「僕らが作品内で殺すのは善人ヅラした合理主義者」漫画家・新井英樹×俳人・北大路翼の無頼派対談

「(アウトローの肩書きつけられたら)恥ずかしいよ」(北大路氏)

男も女も心が“揺れてる”ときに色気が出る

新井:俺、漫画書き始めてから小説に影響を受けるのが怖くなって、ノンフィクションばっかり読んでたんだよ。で、最近になってまた小説を読むようになったら、俺にとっての純文学ってエンタメだったんだってことがわかったの。自分ってなんだ?とか、事件もないのにグチャグチャ考えてるような作品が好きで、登場人物の心情が一切描かれてない話はなんにも面白くない。よく趣味が悪いって言われるんだけど、何か一言ポソッって投げかけた時に相手の反応が見れた瞬間っていちばん楽しい(笑)。 北大路:俺はナンパがそうだったんだよ。女を口説くのって、かなり意識的に揺らしにいくわけでね。揺れる楽しさっていうのはその感覚だと思う。 新井:男も女も揺れてる時がいちばん色気があるからね。できる限り相手を傷つけずに「今まで自分が考えたことはなんだったの?」って思わせるような言葉を投げかけたい。そうすると、たまにすごい怒らせたりどっかでやらかすんだけど。 北大路:でも、最後は自分に返ってくるからね。僕は新井さんみたいに落ち込まないよ(笑)。まあ、ナンパのほうが失敗することがあるぶんお互い様か。アプローチの仕方が文学的か性的かってことだけなんだと思うけど、ナンパっていいんだよ。基本的に負けるのはこっちだし、本能だから反省しなくていいじゃない。 新井:その後の答えはどうでもいいしね。答えに至る直前までの反応を見てみたい。 北大路:一歩踏み留まって、同じことを考えたってところにお互いの気持ち良さがあるんだよね。 新井:そうかもしれない。それこそ、俺が嫌いな共闘するとかみんなでどうこうするってことよりも今、揺らいでる時間を共有したってことのほうが重要な気がする。 北大路:あいつらはそのいちばん楽しい時間をすっ飛ばして、すぐいっしょになって共闘するから勿体ないんだよ。揺れてる時がいちばん気持ちがいいのにさ。結局、同じような結論を出すなら悩んでる姿に同調すべきだと思うね。 新井:悩んでる時間がいちばん有意義だと思う。悩める時間があるってことはもしかしたら、すごい余裕があんのかもしれないけど。「逡巡」って言葉は固くてあまり好きじゃないけど、きっとそういうことなんだろうね。だって、何が楽しくて生きてるのかわかんないもん(笑)。 北大路:ね!(笑)。逡巡だとか刹那、六徳、清浄っていうのも仏教由来の小数の単位でしょ。どんなに全力で生きてても、その間の何千万分の一秒ぐらいに必ず死が訪れているっていうのが仏教的無常観なのかな。僕的には死んでるっていうのはエクスタシーのことで、我々には常にちょっとだけ天国に入る瞬間があるんですよ。 新井:だから、その時間が見えた瞬間は男女関係なく好きになっちゃう。携帯持ってないからこういうこと言えちゃうんだろうけど、SNSを人と繋がる手段として活用するのはやばいって。文字だけのやりとりって、揺れてる状態は絶対に読めないわけでしょ。 北大路:提案として、SNSやめよーみたいな話ね(笑)。10年前は携帯なんてなかったけど、何も問題なく暮らせてたんだから。 新井:そうそう。だから俺、3.11の直後に取材で渋谷に出て、ハチ公前の暗さを見た時にずーっと腹抱えて笑ってたの。煌びやかにしてみろよ!って思って(笑)。今回のワールドカップのVARだって、試しに始めちゃったからにはもう止まらないよ。人間、便利なものには全部巻かれていくんだから。 北大路:VARってつまんないよな。昔は審判に間違ってるって抗議したり、怒ることも含めてひとつのゲームだったんだよ。自分のチームに良いことが起こることを祈って応援しているのに、それを視覚的に否定されるって人間として辛いことだからね。 新井:白黒はっきりさせなきゃ嫌だっていうのは若い子たちの言うことで、いい大人がグレーはやだっていうのは言っちゃいけない。嫌がられるだろうけど、若い奴らにはグレーを楽しめって言わないと。
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白黒つけることが本来の道徳ではない
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