
新井氏の漫画『なぎさにて』では北大路翼氏をモデルにした人物が登場した (C)新井英樹/小学館
白黒つけることが本来の道徳ではない
北大路:そこに文化があるんだよね。グレーこそが本来の道徳なんだからカタギはグレーのままでいいんだけど、ヤクザは白を黒って言わなきゃいけない。ひっくり返すから面白いじゃん。世の中に大事なのはグレーだって濁す人か、白を黒だって逆にしちゃう人。でも、ひと昔前にグレーが勝っちゃったもんだから、その反動として白は白いんだよって言いたい本物のバカが出てきちゃった。
新井:そういう奴らで溢れかえってるからもうきつい。俺の場合はグレーの時代も経てるから気持ちはわかるけどさ。
北大路:無粋だよね。粋っていうのは善悪じゃなくて、スマートさだと思う。男性至上主義で、いい加減に酒飲んで暴れて面倒臭い時は暴力で治めるっていうのはたぶん、一番効率的な生き方なんだよ。ある意味で、本当は誰もが傷つかないマニュアルなのに、資本主義の蔓延によってそういう考え方が通じなくなった。ちょっとしたデコボコぐらい暴力で治ってたことが、今は人殺しにならないと治んないんだよ。
新井:資本主義が至上の約束事として掲げる合理主義なんて、いろいろと考えなきゃいけないこと全部切り捨てれば簡単にできるからね。リストラすれば純利益が上がるってのは当然のことで、リストラされた後のその人たちの生活を考えるから昔の大人たちは苦労してたわけじゃん。こうすれば得をするとか、原因と結果がはっきりしていることをさも大人かのように語って、白いものは白だって言うのは子供といっしょだよ。インスタントに苦労せず悩まずに善人になりたいって、そうしていれば大丈夫、責められないし常に上にいることができるっていう誤解をしてるんだろうなあ。
北大路:そういう奴らを僕らは俳句とか漫画で殺すと。勘違いした奴らを片っ端から新井さんは漫画で殺してくれる。子連れでも関係なく殺すってのはある種のカタルシスで、大事なことなんだと思うね。そういう時代がきちゃったんだよ。そんなこと、僕らの趣味として嫌がらせでやってたことなのに突然、時代に必要とされてしまうっていうのは嫌な感じだね。
新井:そうなの。真面目に書いてるんだと誤解されるから恥ずかしい。だから、今は本気じゃないですよっていう体で書かなきゃいけなくなっちゃった。
北大路:もう本当に末期だよ。こういうシャレすらも通じなくなって、本当にやばい時代なんですよ。アウトローとか人殺し漫画は世の中に受け入れられちゃだめなんだよ。本当は警告のためにやってることなのにさ。
新井:鵜呑みにせず、ちょっと立ち止まる時間を持つだけでもう少しマシな世の中になると思う。『ワールド・イズ・マイン』だって、動機は悪意に満ちてるからね。めちゃくちゃなことをしようと思ってやってきたのに、なんで俺が今、道徳を書き始めることになるの?本当に嫌でしょうがない。もう耐えられないよ、最近は自分の存在そのものがくだらないって思えるようになってきた。
北大路:僕が俳句でやろうとしてるのも同じことだよ。俳句で一番大事なのは現代の季感で、なかには季語を持たない俳句もあるんだけど、僕は夏に寒いって言うとか今までの常識を壊す方法で季感を更新していきたい。一番固まったところが壊しやすいんだ。でもね、世の中は僕らがこんだけ言っても壊れないんですよ。世の中ってのはどんだけ強固でね、きっとこんな話をしたところで1ミリだって動かない。でも、僕はしつこいから言うよ。本当にバカばっかだよ。まあ、僕たちがバカなのかもしれないけど。(取材・文・撮影/佐藤麻亜弥)
新井英樹
漫画家。1989年デビュー。代表作に『
宮本から君へ』(講談社)『
愛しのアイリーン』(小学館)『
ザ・ワールド・イズ・マイン』(小学館)など。現在、月刊コミックビームにて『
KISS 狂人、空を飛ぶ』(KADOKAWA)を連載中。9月14日『愛しのアイリーン』が全国ロードショー。
北大路翼
俳人。歌舞伎町俳句一家「屍派」家元、「砂の城」城主。2016年、第一句集『
天使の涎』(邑書林)で第7回田中裕明賞を受賞。昨年は第二句集『
時の瘡蓋』(ふらんす堂)を上梓、編著に『
新宿歌舞伎町俳句一家「屍派」 アウトロー俳句』(河出書房新社)がある。年内に俳句入門書の刊行が予定されている。