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鴻上尚史、ロンドンでスリに…一文無しになるもTwitterが繋ぐ輪で助けられた話

ロンドン

「サマータイム」という落とし穴

 で、「一体、何が起こったんですか!?」と思わず聞きました。  高殿さんは、「えっ?」という顔をした後、すぐに「鴻上さん、今日、サマータイムが終わった日だってご存知ですよね?」とためらいがちに口を開きました。 「サマータイム……?」  なんと、その日は、6月の最初の日曜日から始まったサマータイムが終わった10月最後の日曜日だったのです。  つまり、僕は前日の続きだから9時半にマンションの前に立ったと思っていたのに、じつは、1時間、時間は戻され、8時半だったのです。

 高殿さんは、時間が修正されるのがチェックアウト当日なので、イギリスの知り合いから何度も念押しされていました。  僕は、んなこと、知るわけもなく、昨日までは9時半、でも今日から8時半になった時間にマンションの前に立っていました。その時、高殿さんは、「あと1時間ある」と、僕のために一生懸命、朝食を作ってくれていました。ツイッターをチェックする理由なんてなかったのです。  高殿さんはなんと2号室でした。抗議するイギリス人女性に返事をする声は、僕にはすっかりイギリス人に聞こえてしまい、2号室をチェックしなかったのです。もし、2号室からインターホンを押せば、もっとはやく事態は解決していたのです。  さて、そんなこんなで、高殿さんと同行していた早川書房編集者の小塚麻衣子さんから、ちゃんと食事ができてなおかつ芝居も見れる大金をお借りしてなんとか生き延びました。  昨日の夜、カード会社にカードの緊急発行を頼んでも、土曜を挟んでいるので最低でも3日はかかると言われました。さらに郵送で、それがカード会社の中では最速でした。  もし、高殿さんがいなかったら、いったいどうなっていたんだろうとゾッとしました。  日本からの緊急送金とか大使館に頼るとか、その間は水で過ごすとか、まだ見ぬドラマが待ち受けていたのでしょう。それは誰かのレポートで読みたいのでぜひお任せして、僕からの報告は以上です。

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本連載をまとめた「ドン・キホーテのピアス」第17巻。鴻上による、この国のゆるやかな、でも確実な変化の記録

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