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哀悼「京アニ」が救ってきたもの。90年代には人権、宗教を扱った作品も

日常アニメというジャンルを開拓した京アニの“アニメ文法”

 映像コンテンツの世界において、制作プロダクションの存在感は希薄だ。例えば新作映画が公開されたとして、世間の関心が向かうのは、一般的にベストセラー小説や、メガホンをとる有名監督だろう。だが、アニメファンの間では、「京アニ作品だから見る」という視聴行動が一般化しており、その独特の雰囲気が強く支持されている。 「なんといっても、キャラの個性の演出レベルが尋常ではない。深夜アニメのキャラの動きはある程度標準化されていて、クリエーターたちが効率的に分業できるよう、表情も『驚き』や『怒り』など、わかりやすいものが多い。しかしその点、京アニは細かい表情の機微だけでなく、歩き方や驚き方に至るまで、登場人物ごとに個性が見えるところまで徹底的に作りこんでいるんです。一貫制作体制を取っているからこその芸当です」(前出・久保内氏)  こうした仕事の背景にあるのが、作画へのこだわりだ。例えば『涼宮ハルヒの憂鬱』では、ハルヒが高校の文化祭でバンドを組むシーンがあるが、ステージで熱唱する彼女の口の動きや表情は、実際に人間が歌う顔をコマ単位で参考にして描かれている。また、バックで激しくかき鳴らされるギターは、楽譜通りの指運びを再現。これまでの常識を打ち破る演奏シーンだった。  その後『けいおん!』では、メンバー間のアイコンタクトなど、演奏している“バンド感”の雰囲気にも踏み込んでいる。さらに、高校の吹奏楽部を舞台とする『響け! ユーフォニアム』では、指揮者の指示によって数十人に及ぶ部員たちの演奏シーンを息継ぎ・運指・楽譜のめくり方にまでこだわって描かれた。 「ただ、現実に即して正しい動きを再現しているだけではないんです。アニメならではの柔らかい動きや、マンガ的な表現も無理なく入れ込んだハイブリッドなもので、現在のアニメファンの『こう動いてほしい!』という要望に寄り添う、理想化された動きが多く見られます」(同)  時に繊細かつリアルな描写で、まるで実在するかのように動きつつ、時に大きな目に現実ではありえない量の涙をたたえて嗚咽する。京アニの描く魅力的なキャラたちは、多くのファンを魅了したのだ。
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京アニが作った意外な作品
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