エンタメ

哀悼「京アニ」が救ってきたもの。90年代には人権、宗教を扱った作品も

京アニ

アップル、ニューヨークタイムズ。世界中から寄せられた哀悼の意

 その衝撃的な第一報「京アニのスタジオが燃えている」はネットを通じて瞬く間に世界に広がった。 「燃え上がる京アニをツイッターで見て、声が出ませんでした。きっと大丈夫、みんな逃げてるから大丈夫って……。自分にできることはハッシュタグを付けて、スタッフの無事を祈るくらいでした」(京アニファンの女性)  さっそくツイッターではハッシュタグ「#PrayForKyoAni(京アニのために祈る)」も作られ、この女性ファンのように、多くのメッセージがネット上に溢れた。とりわけ韓国からは「韓国でも募金運動が始まったら寄付をする」「再び活動する日を待っている」と熱いメッセージが数多く寄せられていた。  他にも中国国内では第一報の直後に、動画投稿サイト・ビリビリ動画などに日本のニュース映像が転載。中国版ツイッターとして知られる微博では「#京都动画发生爆炸#」というハッシュタグとともに、洪水のようにコメントが発信された。なかには「放火犯は1万回殺しても足りない」というような過激な怒りもあったが、多くは「スタッフが無事であることを願っています」といった祈りの声だった。  放火により多くの死者が出たことはアニメファン以外にも衝撃を与えた。国連ではグテーレス事務総長が「この悲劇のなかで国連は日本政府と日本の人々と共にある」と哀悼の意を表明。カナダのトルドー首相がツイッターで「我々はこの悲劇的な損失を共に悲しんでおり、負傷者の早い回復を願っている」とコメントしたほか、アメリカやフランス、中国の大使館も相次いで悲劇を悼むメッセージを発表した。また、アップルのティム・クックCEOは「京アニのアーティストたちは傑作を通して世代を超えて世界中に喜びを広めてきた」と惜しんだ。  海外メディアでも事件は大きく報じられたが、なかでも『ニューヨーク・タイムズ』は京アニが社員の労働環境の改善や女性の雇用に積極的に取り組んできたことを取り上げている。  事件を通じて目立つのは、政治と文化は別物と捉える姿勢だ。領土問題や歴史認識で対立を抱える中韓や、普段は日本に批判的な論調の多い海外紙も、哀悼と支援を呼びかけている。すでに京アニに寄せられた海外からの寄付は2億円を超えており、この事件は、人類共通の貴重な文化の損失として受け止められているようだ。

人権、宗教も……京アニが作った意外な作品

 京アニは、その成長過程で多くの作品に携わっている。  その中には、『しあわせってなあに』(’91年)などの宗教アニメが3作品。身体障害者を扱う『おじいちゃんの花火』(’98年)や民族差別を描く『残された名刺-ある在日一世の軌跡-』(’96年)などの人権アニメが3作品ある。
京アニ

京アニの人権アニメなどをまとめた、かに三匹氏の同人誌はコミケで販売されて話題に

 これらは娯楽作品ではないが、随所に京アニらしさが光っている。宗教・人権アニメを研究する、かに三匹氏は語る。 「京アニはロケハンの正確さに定評がありますが、『残された名刺~』では鶴橋駅を正確に描いていますし『おじいちゃんの花火』ではクライマックスとなる隅田川の花火のシーンで川や周辺地域を正確に描写しています。いじめを扱う『二匹の猫と元気な家族』(’97年)でも、単純な記号的表現を避けつつも、しっかり視聴者に意図を伝える巧みな描写があります」  どんなクライアントの発注にも真摯に応えるプロ根性が、現在の京アニの原点にあるのだ。 取材・文/野中ツトム(清談社) 森田光貴 写真/朝日新聞社
1
2
3
おすすめ記事