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あおり殴打事件では別人を犯人扱い。ネットのデマ拡散の恐ろしさ

実在しない大学に「謝罪しろ」

 次に、上記の事案とは少し色合いの異なるデマ騒動をご紹介しよう。2018年に飲食店を名乗るアカウントの、こんな投稿が拡散された。「国際信州学院大学の教職員50名が、予約を無断でキャンセルした」という内容だ。  飲食店で数十人規模の予約をして、結果的に連絡すら入れずキャンセルしてしまう。確かにこれは悪質な行為だ。Twitterでは「国際信州学院大学は謝罪しろ!」という論調の非難が殺到した。
国際信州大学

実在しない国際信州大学のHP

 が、実はこの飲食店は現実に存在しない架空のもの。しかも飲食店だけでなく、国際信州学院大学自体が「フェイク大学」である。国際信州学院大学のホームページは存在する。ところが、これは壮大かつ精巧なジョークサイトのようなもの。  つまり「予約をドタキャンされた」という一連のやり取りは、徹頭徹尾フェイクだったのだ。それにネットユーザーは躍らされてしまった。なお、この国際信州学院大学のホームページは現在も更新されている。

デマを信じて逮捕される

sns ネット上のデマを信じ、身を滅ぼしてしまった具体的な事例がある。8月21日、埼玉県警は道路交通法違反(速度超過)で34歳の会社員男を逮捕した。制限時速40kmの県道を78kmで運転していたというが、それだけで逮捕されるのだろうか?  実は、男は警察署からの出頭要請を拒否し続けたのだ。その理由が「上申書を書けば違反を逃れることができる」と思い込んでいたためで、これはネットで知った情報だと供述している。  男は「ネットで見た上申書を送れば捕まらないと思った」と話しているという。もしも男が素直に署へ出頭していれば、逮捕には至らなかった。デマの鵜呑みは人生を棒に振るということを、その身をもって実証してしまった例である。

インドネシア報道官が語った「デマ回避術」

 が、どのような人でもネット上のデマをつい拡散させてしまう可能性はある。「自分は絶対にデマに惑わされない!」という自信は、実は根拠のないものだ。「デマは常に身近にある」ということを心掛けなければならない。  今年7月に死去した、インドネシア国家防災庁のストポ・プルウォ・ヌグロホ主席報道官は世界的に有名な人物だった。日本と同じく地震や豪雨災害が相次ぐインドネシアだが、その度にネット上では悪質なデマが拡散されている。2億5000万人の人口を抱えるインドネシアでは、スマートフォンの2台、3台持ちは珍しくない。情報が伝わる速度は日本以上であると断言してもいいだろう。  ストポ報道官は肺癌に侵された身体に鞭打ちながら、自らのTwitterアカウントで災害現場の画像の真贋を検証していたのだ。  去年10月に首都ジャカルタの近海で発生したライオン航空墜落事故は、まさに「デマの呼び水」と化した。「墜落直前の機内の様子を撮影した動画」が登場し、日本のニュースサイトもそれを紹介していた。が、ストポ報道官はその動画は該当の事故と全く関係のないものと公表した。その際、ストポ報道官はこのようなツイートも行っている。
 「衝撃的な画像や動画は君のところで止めよう」という内容だ。ショッキングな内容の映像は遺族を傷つける者であると同時に、デマである可能性が極めて高い。大衆の「知りたい!」という欲望が、非現実的な内容のデマを魔物にさせる。デマの業火は他人のみならず、いずれ自分自身をも焼き尽くしてしまうのだ。<文/澤田真一>
ノンフィクション作家、Webライター。1984年10月11日生。東南アジア経済情報、最新テクノロジー、ガジェット関連記事を各メディアで執筆。ブログ『たまには澤田もエンターテイナー
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