エンタメ

リベンジをかけた混浴で、この世の残酷さを知る――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第60話>

この世の残酷さを、僕は凝視することで対抗した

「刺青の女……!」 「怖い……!」  おっさんどもは一気に委縮した。  怖い。せっかく混浴を達成したのに、それが刺青の女だったなんて。見ているだけで、なに俺の女の裸見てるんだ、おおん? ってなるに違いない。怖い。とにかく怖い。  おっさんどもは委縮した。けれども委縮したのは他のおっさんだ。僕だけは違った。僕の心にあるのは怒りだった。委縮なんてとんでもない、純粋なる怒りがそこにあった。 「どうしてカップルで混浴入るなんてそんなことができるんだ。俺たちおっさんのことバカにしてるのか? 汚いおっさんどもがお前の体見ていたな、やだあ、とか会話しちゃうのか。それで満足か。俺たちをバカにして満足か」  怒った僕が取った行動は凝視だ。  どんなに刺青が怖かろうが、睨みをきかしてこようが凝視だ。目をそらさず、この世の残酷を凝視する。決して目を背けてはいけない。かたやおっさんどもで池に入ったり30分彫刻になったり、かたや何の苦労もせずに彼女と混浴。この世はずっと残酷だ。残酷でないことなどなかった。  そのうち、女は女湯に戻り、刺青も周囲を威嚇しながら上がっていった。 「ずっと凝視してるから怖かった」 「なにもあそこまで見なくてもいいのに」 「あれ、刺青に殴られても文句言えない」  風呂から上がると、おっさんどもは口々に言った。 「この世は残酷だなあって思ってさ。あれは怒りだよ」  湯上りのおっさんどもは静まり返った。 「また来年もいい混浴探そうな」 「今度はカップルのプレイの一環じゃない混浴がいいな」 「いきなりチンポ掴まれたらどうしよう!」  僕たちのジャーニーはまだまだ続く。本当の混浴を求めて。 ロゴ・イラスト/マミヤ狂四郎(@mamiyak46
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

1
2
3
4
pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

おすすめ記事