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酒場で不倫の武勇伝を語りたがる男たち…なぜ?――酔いどれスナック珍怪記

まだ現役なのを見せつけたい

 お互いに疚しいことのない健全な彼氏彼女ならば好きなだけ惚気て頂いて構わないのだが、そうでない場合、というか飲み屋ではそうでない場合が圧倒的に多くて、たいていどちらかが既婚者だったり、どちらかに恋人がいたり、まったくその気がないのに酔った勢いでやってしまったとかばかりなのだけど、そんな状況の時に人様にべらべら喋ったり見せびらかしたりして良い結果になることは今まで見てきて一つもない。  だというのに、ゴールデン街なんかでは文化人のオッサンが弟子兼愛人みたいな若いライターの女子を連れ回してみたり、他の社員も頻繁に飲みに来るようなスナックに自分の部下兼愛人を連れて来てこれみよがしにいちゃついてみたり、本命の彼女と飲みに来てるバーに浮気相手を連れて来てみたり、奥さんにバレてあたふたしているくせに自分の面が割れている繁華街で堂々と愛人と腕を組んで歩いてみたり、飲み屋なんて星の数ほどあるのにどいつもこいつもみんな後ろめたい関係の相手を自分のホームグラウンドに連れて来てしまう。言っちゃ悪いけど、そういうことをしたがるのはたいてい男のほうで(女もたまにいるけど。自分が本命アピールしたいとか、積極的にバレさせて相手の家庭をブチ壊したいとか。でも結果的に成功しない。なぜなら男はそんな女からは最終的に逃げるから)、そこには自分がモテることをアピールしたいとか、まだ現役なのを見せつけたいとか、刺激が欲しいとか可愛らしくも情けない欲望が顔を覗かせている。  うんざりするような遠い昔、わたしもそんな既婚者の男と付き合っていたことがあって、法を司る金色のバッジを胸元に光らせた彼は自分の愛人(一人目)のいるキャバクラに私(二人目)を連れて行き、ちょっと両者の嫉妬心を擽ってやろうくらいに思ってたんだろうけどまさかそんなことをするとは思っていなかった愛人(一人目)にシャンパンと出前で取ったココイチのカレー7辛をぶっかけられるという修羅場を招き、奥さんも事務員として働いている自分の事務所に深夜三時にわたしを連れ込み、毎日のように不倫だとか離婚だとか慰謝料だとかの書類を処理しているであろうデスクで自分の性欲を処理して、事務所への地獄のような大量の怒声交じりの留守電とわたしへの大量の無言電話という修羅場を引き起こした。  お店のマスターの回想だが、セピア色でしか再生されないような遠い昔、よく来ていた不倫カップルが姿を見せなくなったなと思っていたら男のほうが殺されていたことを人づてで知ったという。男ははじめ二人の子供を設けた奥さんと二人で飲みに来ていたが、やがて一緒に来るのは若い女へ変わった。自分をバツイチだと偽っていた彼は、若い女に堂々と妻と子供の写真を見せて、別れた妻と子だと説明していた。溜息をつきながらも見守っていた矢先のことだったので、彼を殺害したのが若い女なのか妻なのかはわからないという。
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酒の入った人間を信用するな
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