ライフ

酒場で不倫の武勇伝を語りたがる男たち…なぜ?――酔いどれスナック珍怪記

酒の入った人間を信用するな

 思い出すのも面倒くさいなぁと思う数年前、同時に四人の女と付き合っていた会社員の男は、四人全員店に連れて来てしまっていた。日にちを分けて二人で飲みに来ているうちはよかったのだが、やがてそれぞれの女が単独で飲みにくるようになったのは当然のことで、我々は当然知らぬ存ぜぬで四人の女全員を彼の本命というかだた一人の彼女のように扱わねばならない。当然、女の誰かが、彼が四人のうちの別の誰かと飲みに来ている場面にも鉢合わせるわけで、結果的に嫌でも色んな噂が耳に入って怪しんだ四人全員が鉢合わせた。その時彼が震えながらも発した言葉は「痺れるわぁ~」だったので、もうほんとうにどうしようもない。 「そんなことになると思わないでしょ?」  アホ面を晒しながらいつも男たちはそう言うけど、妻にしろ彼女にしろ愛人にしろ、関係性の寿命を縮めるようなことをしているのは当の本人なのである。  店の人間は守秘義務があるから言わないにしても(店の人間だって外へ出てどこかの店の客という立場になったら案外お客たち内緒の事情を喋ってしまうものだし、実際そういう光景はよく見る)、周りの酔った人間たちの耳に入れば、どこからともなく噂は広がって、余計な尾ひれが十枚くらい付いて街中を闊歩する。  基本的に、みんな酒の入った人間たちを信用し過ぎである。  酔った人間に「ここだけの話」なんてないのである。その証拠に担当編集がウンコを漏らした恥ずかしい過去をこうやって全国に公開してしまうわたしがいるのである。  まぁ散々書いているようにウンコを漏らした話とかバカな下ネタは本人以外の周りの人間を傷つけたり煩わすことはないから良いし、やっぱり自分の中で今人様に話しても問題ないネタになっている事柄以外は飲み屋といえど話すべきじゃないように思う。内緒の話を打ち明けられてこその飲み屋だとも思うけど、状況を選んだり、その話が広がってしまって誰かを傷付ける可能性がないか考えることも必要だ。  いやらしい話をするとお店にとってはね、飲みに来ていた二人がトラブってどちらか一方が来なくなるとお客様が一人減るというね、そういう損もあるわけですよ。わかりますね?<イラスト/粒アンコ>         
(おおたにゆきな)福島県出身。第三回『幽』怪談実話コンテストにて優秀賞入選。実話怪談を中心にライターとして活動。お酒と夜の街を愛するスナック勤務。時々怖い話を語ったりもする。ツイッターアカウントは @yukina_otani
1
2
3
おすすめ記事
ハッシュタグ