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大坂なおみを世界一に導いた指導者に聞く、日本スポーツ界に蔓延る“根性論”の是非

――なるほど。では、サーシャさんが若い選手を指導する時に気をつけていることはありますか? サーシャ:今回出版した本では、テニスプレイヤーだけではなく、あらゆるスポーツ、そしてビジネス界にも使えるものと思っています。その上で、まず私が若い世代にアプローチするとき、やっぱり“寄り添う心”を重要視しています。私がセリーナ・ウィリアムズ、大坂なおみのらの練習パートナーも務めていたように、練習(ハードワーク)にもとことん付き合う。2時間、3時間でも徹底的に。選手に“厳しさ”を求めるならば、自分も同レベルのものを課さなければ、フェアではありません。  もうひとつは私の信条でもありますが、きちんと話し合いをする。自分は聞く姿勢がある、オープンですよということをきちんと伝えるのですが……これが最初はなかなか難しい。 ――年齢差があるほど難しそうです。 サーシャ:なおみの例を出しましょう。彼女は最初、すごく物静かでなかなか心を開いてくれなかった。絆を結べる接点を模索する中で、たまたま彼女に「アニメの『DEATH NOTE』面白いよ」と薦められました。本当はまったく興味がなかったけど、毎晩2~3話ずつ頑張って観て、会話の糸口にしました。  もうひとつ彼女と一緒に仕事をしだして3か月目ぐらいのときに、突然「ジップラインがやりたい」と言い出しました(編集部脚注:ジップラインとは森の中に張ったワイヤーを滑車で滑り降りていき、絶景を楽しめスリルを味わえる、世界的にも人気のあるアクティビティ)。私は絶叫アトラクションも苦手だから、やりたくない(苦笑)。でも、彼女と絆を深めたかったから…頑張りましたよ。こうやって彼女の趣味嗜好をどんどんインプットして、理解する。そして指導に活かしていく。 ――なるほど。 サーシャ:よく指導者が「私はどの選手も平等に扱っているから」と言いますけど、同じ助言でも選手の状態によりけり“捉え方”は違います。だから選手一人一人の状態を見極めて、同じ助言でも適切な“言い方”をチョイスすることが、本当の意味での平等。そして指導者の腕の見せどころだと思います。 ――それだけ選手と寄り添っていたら、サーシャさん自身は休む時間はないのでは? サーシャ:あっはっは、確かにそうですね。私は残念ながら年中無休で採用されているので、携帯電話はオフにできません。休日のホテルの部屋にこもったり、ジムで汗流す程度です。それこそ先程言った“自己犠牲”です。やっぱり成功にするには、犠牲が必要なんです。ただ、私はテニスが一番好きということを気持ちがあるから続けてこれたと思います。“根性論”の議論に巻きこまれてしまう若い選手たちには、そのスポーツを嫌いにならないでほしいですね。 サーシャ・バイン テニスコーチ。1984年生まれ、ドイツ出身。セリーナ・ウィリアムズのヒッティングパートナー(練習相手)としてコーチ職となり、18年シーズンから当時世界ランキング68位だった大坂なおみのヘッドコーチに就任。日本人初の全米オープン優勝に導き、ランキング1位に成長させる。7月に初の著書「心を強くする 「世界一のメンタル」50のルール」(飛鳥新社)を発表 <取材・文/日刊SPA!取材班、写真/長谷英史>
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