更新日:2023年04月25日 00:38
ライフ

ダメ人間だらけの禁煙サークルとオールブラックス――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第67話>

突如、現れた美マダムの告白におっさんたちは……

 電気屋さんにいたっては本当にひどく、 「はやくこの会を終わりにしてピース(けっこうヘビーな銘柄のタバコ)を吸いたいですわ!」  と意味不明な供述をしていた。本当にこの人、何しにきたんだ。  何週かこういった不毛な時間が続き、電気屋さんも絶好調、そのうち「禁煙つらい」と告白しながらその場でピースを“ぷかあ”とやりそうな気配が漂っていたのだけど、異変が起こった。とんでもない異変が起こったのだ。  いつものように、みんなタバコの臭いをプンプンさせて禁煙サークルに参加していたのだけど、そこに妙に艶っぽい雰囲気のマダムが参加してきたのだ。ニューカマー到来である。おっさんどもから見ればいい女、電撃参戦である。  しかもこのマダム、最初の告白で涙ながらに熱い想いを訴えた。そう、ガチで禁煙を志す人がやってきたのだ。 「本当にタバコをやめたい。子供たちのためにもやめたい。そして再婚したいです。ここにいる皆さんのように立派な意思を持ってきっぱりと禁煙したい」  全くもってこの会のことを理解していない告白なのだけど、これにはさすがのおっさんども「みなさんのように立派な意思を」のところでばつが悪い感じになっていた。さらに、マダムが口にした「再婚」というワードにおっさんどもは色めきだった。  マダムの手前、ガチで禁煙をしなければならないし、上手くいけば一緒に禁煙を乗り越えて再婚とかできるんじゃないか、そこまでいかなくともこう良い感じにしっぽりといけるんじゃないか、そんな雰囲気がムンムンに流れ始めた。早い話、みんな本気になった。  その日以降はすごかった。おっさんどもがガチで禁煙を始めた。 「本当にきついです。寝ても覚めてもタバコのことばかり」 「でもこれを乗り越えれば」 「絶対にタバコをやめたい!」  サークルで放たれる発言もガチな感じのトーンになり、各々の禁煙に対する苦悩が読み取れるようだった。  特に電気屋さんは発狂寸前みたいな感じになっていて、「タバコの葉っぱをバラバラにして食べたら吸ったことにはならないけど、吸いたい気持ちは満足されるんじゃないか(※真似しないでください)」みたいな意味不明な供述をしていた。  そんなに苦しいなら僕みたいに本数を減らすとかすればいいのに、いきなりやめようとするから苦しいんだ、とやや冷ややかな視線で見守っていた。
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マダムに気に入られたいあまり、おっさんたちがついに暴走
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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