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バス運転手へのクレーム「遅れてるくせにトイレか! 殺すぞ!」に何を思うか/鴻上尚史

「社会」からのレッドなクレームの対処法

 日本人は、「世間」に属する人には丁寧に対応しますが、「社会」に属している人には、とても冷淡です。  駅の階段でベビーカーをふうふう言いながら持ち上げている女性を誰も助けないのは、相手が「社会」に属している人だからです。  なのに、乗客は「世間」の人だと誤解してしまうのです。コンビニで大声を上げて抗議するモンスター・クレーマーは、ただの「社会」の人です。ひどい言葉を投げかけられ、お店から出て行かないのなら、警察を呼べばいいだけなのです。  相手は「社会」の人だと認識した上で、クレーマーを三種類(ホワイト・ブラック・レッド)に分類するのです。  以前、この連載で紹介しましたが、例えば、「バス停の停車時間が短い」とか「運転が荒くて怖い」なんていうのは、ホワイトな苦情です。「殺すぞ!」というような、一線を超えた言葉が飛ばないかぎり、聞く必要があります。 「急に発進したから、倒れてケガをした」と言われ、けれど、全然、急発進などしてない場合は、ブラックな苦情です。目的は、金品です。こういう人は、「誠意を見せろ!」「お詫びの気持ちを形にしろ!」としか言いません。自分から金を要求すると恐喝になるからです。  ブラックの対応は、じつは比較的簡単で、相手の目的は金品ですから、それが無理だと分かったら、次のターゲットにさっと移動します。警察に依頼しても、逃げるのは早いです。  そして、三番目が「承認欲求のために自己主張だけを繰り返す」人か「病んだ人」です。「遅れてるくせにトイレか! 殺すぞ!」と叫ぶクレームは、じつは、レッドの「病んだ人」に分類されると思います。  レッドが一番やっかいで、個人で対応するのは無理です。会社全体でチームプレーとしてレッドに対応する、という方針が必要なのです。 「ドライバーは人間ですから、生理的欲求でバスを止めることもあります」と会社が、まず、毅然と発表・対応することが必要なのです。  電車の運転手や消防士が勤務中に水を飲んだというクレームに対しても、組織全体がひるむことなく「当たり前です。人間ですから」と答えないとレッドは減らないのです。
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