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死期が迫った人が詠んだ句は、ほぼ100%わかる!俳人・北大路翼×歌人・笹公人

気になる俳句を解説

 トークショー後半は今回のエッセイに収録された俳句のなかから自解10句、それぞれの句に纏わるエピソードへ。そして最後は彼らが俳句と短歌に期待する未来についての話題で締めくくられた。

神になる一歩手前のエスカルゴ

北大路:金原まさ子さんっていう俳人がいて、106歳ぐらいまで生きたのかな。とっても面白いおばちゃんでずっとね、仲良くしてくれてた。晩年には『徹子の部屋』に出演したりとか句集も4冊ぐらい出していて、桂信子さんや宇多喜代子さんより先輩なんだけどBLとか耽美なものが好きな方でね。亡くなる前はヘロインやってみたい!って言ってました(笑)。直前まですごく元気で、最後は『頭脳明晰!』って言って死んでったらしいですよ。 笹:へぇー!すごいかっこいい。まるで漫画に出てくる博士みたいな亡くなり方ですね。歌人は行儀がいいけど、やっぱり俳人は破天荒な人が多いなぁ。 北大路:神様の話をしてたらふと、彼女のことを思い出してね。ねぇ、懐かしいなぁ。生きてたらもうすぐ110歳だったのかな。まだまだこの人は生きると思ってたんだけどね。

風鈴の風待つやうな技術かな

北大路:僕は意外と俳句に関しては伝統派なんです。世間ではアウトローだとか言われちゃってますけど、基本的には俳句は技術が8割だと思ってる。『ウォシュレットの設定変えたやつ殺す』ってこの句ばかり取り上げられて、代表句みたいな感じになってるけど、僕の俳句って別にそういうことじゃないからね。もっと静かな部分にこそ、本当の俳句の良さがある。その魅力をどう伝えていくかが今後の課題かな。 笹:ちなみにいちばん好きな俳人は誰ですか?。 北大路:あぁ難しいな…。たくさんいすぎてすぐには浮かばないけど、僕は加藤楸邨の系統にいるのでやっぱり楸邨は好きですね。彼の影響を受けて有季定型の俳句を詠んでいるのに、なぜか“自由律の俳人”として扱われることが多い。 笹:種田山頭火みたいな感じで、ルックスのイメージが自由律っぽいんだよ。歌人の山田航君は代表作に『たぶん親の収入超せない僕たちがペットボトルを補充してゆく』という歌があるために、勝手に“引きこもりの歌人”ということにされることがあるって嘆いてました(笑)。メディアに出るようになると、どうしてもイメージで語られちゃうんですよね。

寄せ鍋のどの具も一切づつ残る

笹:この句は俵万智さんの『砂浜のランチついに手つかずのたまごサンドが気になっている』という短歌にもちょっと近いものを感じます。遠慮を想像させる部分とか。 北大路:遠慮やだねぇ。句会中に「私の句なんて…」って言う人がよくいるんだけど、それは僕、すごく失礼なことだと思うからいつも怒ってるの。良いか悪いかは見た人が決めることであって、最初から自分で判断するべきものではないし、そもそも悪いって言いながら人に見せるなんてどういうつもりなの?と。

小説の世界は華やかだけど…

笹:わりと言葉のパワーを信じてるタイプですか?短歌の世界だと、辞世の歌を詠んですぐに亡くなる方が多いんですよ。 北大路:俳句もそう。死ぬ人の句ってね、絶対にわかるんだ。込められている文字のなかに命の灯火みたいなものが見えて、あ、この人死ぬな…って。そう思った人はほぼ100%で一週間以内に死にますね。 笹:一週間以内!?(笑)。俳句で寿命がわかるんですか。 北大路:わかりますよ。弱ってくると元気な句を作って自分を励まさないといけなくなるから、逆に死ぬ死ぬ言ってる人は大丈夫なんだ。もっとね、玄関に陽が差してるみたいな句を作る人とか。ああ、これはもうあの世の光が射してるんだ…と思ったりね。玄関とか門とか、向こう側に行けるようなものを詠みだしたら、あの世の世界が近付いていると思って気をつけたほうがいい。 笹:へぇー!良いこと聞きました。すごいね。俳句を患者に詠ませて、それで寿命を占うような俳句クリニックとかできそうじゃない? 北大路:で、あとは葛根湯を出しときゃいいみたいな(笑)。俳句と葛根湯をセットでね。 笹:この本の良いところはリズム感が良くて、読んでて疲れないっていうか。文章の最後にちょっと自虐が入ってたり、きたきた!これが読みたかったんだ…!って感じでスラスラと読み進めることができる。俳人って、実はこんなに文章が上手な人はなかなかいないんですよ。小説を書く気はないの? 北大路:書きたいですね。このあいだ、同じ年で親しくさせていただいてる哲学者の千葉雅也さんが小説を書いて文芸賞も獲ったので、その時のパーティーに招待されて行ってみたら、やっぱり会場全体が華やかでね。 笹:俳句とか短歌は地味だけど、小説になると急に華やかになりますよね。憧れがない世界って若者が入ってこないから衰退しちゃうんですよ。ハッタリでもいいから、今後のためにどんどん派手にしていったほうがいいんだと思う。 北大路:ねぇ!それが僕のテーマだよ。こういうイベントを開くこともそうだし、俳人とか歌人はもっと表に出ていかないと。今の若い子たちはシビアですからね、一句100万だよって話になれば子供だって俳句作るよね。 笹:例えば音楽ならどっかで流れるたびに印税が発生するけど、僕らには著作権みたいなものがないからいくら引用されてもお金にならない。まあ、だからこそ自由に批評、討論できるのが良さでもあるんだけど。とにかくみんな読んで!読めばわかる本なので。 北大路:読めばわかるということで(笑)。俳人とか歌人って意外とこうやって、何か特別なことじゃなく普通のことを考えて生きてるんだよ。ということで、少しでも僕たちの思考の一端が見せられたらよかったんじゃないかな。どうも長い時間ありがとうございました。〈取材・文・撮影/佐藤麻亜弥〉 北大路翼 歌舞伎町俳句一家「屍派」家元、「砂の城」城主。2016年、第一句集『天使の涎』(邑書林)で第7回田中裕明賞を受賞。第二句集『時の瘡蓋』(ふらんす堂)の他、編著に『歌舞伎町俳句一家「屍派」アウトロー俳句』(河出書房)がある。昨年初のエッセイとなる『生き抜くための俳句塾』(左右社)、『半自伝的エッセイ 廃人』(春陽堂書店)を刊行。現在、第三句集を執筆中。 笹 公人 「未来」選者、現代歌人協会理事。「牧水・短歌甲子園」審査員。大正大学客員准教授。2003年、第一歌集として発表した『念力家族』(朝日文庫)が2015〜16年NHK Eテレにて連続ドラマ化。歌集『念力図鑑』(幻冬舎)、『抒情の奇妙な冒険』(早川書房)、『念力ろまん』(書肆侃侃房)、作品集『念力姫』(KKベストセラーズ)、『笹公人の念力短歌トレーニング』(扶桑社)、絵本『ヘンなあさ』(岩崎書店)、エッセイ集『ハナモゲラ和歌の誘惑』(小学館)など著書多数。
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