更新日:2020年05月29日 18:26
お金

緒戦の雪辱なるか。稀代のギャンブラーが練り上げたGⅠ・高松宮記念の予想とは?~李正侑の「払い戻しはこちらへ」vol.2~

顎回しの純がみせたファインプレー

 金の字が、「この街で絶対にガサの入らないハウスがあって、そこと癒着しているデコがどうしても許せない」って話にまず変化球を入れてきた。  まあこの男はこの街で博打だけで糊口を凌いでいるという点においては俺の先輩でもあるし、今回やられたグループとも仲が良かったんだろう。  それにてめえのハコでデコにやられてひどい目にあったこともあった。だから気持ちも多少はわかるが、今それを言うかなあと。俺のブレた馬券に怒っていると思ったら、国家権力に怒りだして、今度はビデオポーカーの八百長について怒りだす始末だ。  そこで割って入るのが件の顎回しの純ちゃん。 「ほらほら、みんなさあ、ピリピリしすぎだって。李くんにも勝ち負けっていうよりも面白さを期待している訳よ、先方さんも。美味しいの持ってきたからリラックスリラックス。」  俺は知っている。先方さんことブン屋のハマちゃんと純ちゃんが実は二回しか会ったことのない浅い関係であることを。  前回の原稿のやり取りをした時にブン屋から聞いてしまったんだ。ちょっとした知り合いを深い繋がりのように説明してついには俺達をくっつけて物書きの真似事をさせちまうんだから大したもんだ。  だがそれを今言うべきではないと思ったのは、俺のアジトのスピーカーに自分のiPhoneを繋いで、OhWonderのThe Rainという曲をかけ始めた頃。  ああだのこうだの五月蠅かった俺の仲間は、回ってくる葉巻を吸い込んでは、一人ずつだんまりして気付けば窓の外を見ていた。 「でもよ、結局勝つしかねえだろ。俺達みたいなのって。そうだろ?」  俺はそう呟いた。 「それが結局すべてで、でもどんなに頑張ったって時の運もいくつかある。それ以上どうのこうのはねえよ。」  誰もがわかっているであろうことを、あえて言葉にすると何も言葉が返ってこなくなる。  皆が納得したような顔で頷いて、純ちゃんだけがスマートフォンでパズルかなんかのゲームをしていた。 「話はわかったよ。でも兄貴は今回どうするの?負けないようにするのか、大きく勝ちに行くとか。そういうの教えてくれよ。」  金の字が口火を切った。  こいつは競艇で散々、そう散々と幾度言っても足りないような穴狙いをしてきて身代を削って、最後に辿り着いた絶対イン逃げをすると自身が思える番組に全てを突っ込む男。  気持ちはわかる。心配してくれているんだろうな。  確かに勝負事で熱くなって取り返そうが一番に大きくなると、ほとんどの場合待っているのは破滅でしかない。 「俺は勝負するよ。置きに行くならテレビ番組の予想で十分だろう?」  誰もがこれだろってそういうレースでよ、俺もこれですって。そういうの書いているくらいなら意味なんて感じねえし、俺はもっと別の金の稼ぎ方をするよ。  てめえを信じて、無茶やってだぜ。それで場外ホームラン打つからこそ格好も付くってもんだろうが。 「やっぱり兄貴だ!そうだよな!」  ほらな。  市場調査の一番簡単なやり方が、一番近くにいてくれるこの馬鹿。今週も人気は消して勝負させてもらう。高松宮記念。日本のど真ん中、中京競馬場のGⅠでな。
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高松宮記念で注目すべき馬は?
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新宿・歌舞伎町を根城にするギャンブラー。競馬競輪、ボートにバカラと賭け事ならなんでもござれ。座右の銘は「給我一個機会,譲我在再一次証明自己」

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