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匿名のSNSであっても自分の社会性を強化することはできる/鴻上尚史

“世間”だけに向けて行うSNSは排他的になる

 また、日本ならではの事情もからんできます。 「同調圧力」の強さと、「自尊意識」の低さが、日本の宿痾(しゅくあ)であると僕は繰り返し書いています。「宿痾」とは、「長い間、治らない病」です。 「同調圧力」から一瞬でも逃れる方法は、匿名になることです。 「旅の恥はかき捨て」ということわざがありますが、旅に出て、初めて「世間」のしがらみから自由になったと感じる日本人は多いと思います。  SNSを実名で登録することは、精神的に自由な空間に「世間」を持ち込むことです。抵抗がある人が多いと思います。  実際に、フェイスブックとかで、「知り合いですか?」と勝手に紹介されると、重たい感覚に僕はなります。  匿名でSNSをやることと、自分の「世間」ではなく、「社会」を強化し、広めることとは、矛盾しないと僕は思っています。  自分の「世間」を強化するためにSNSを使う場合は、仲間にだけ分かる言い方で親しく語り、他人を無視します。 「世間」の特徴は排他性ですからね。  逆に言うと、周りの「社会」を排斥するからこそ、「世間」の絆は強まるわけです。  自分の「社会」を強化するためにSNSを使う場合は、知らない人と会話するスキルが求められます。ただ、感情を吐き出したり、ぶつけたりするだけだと、知らない人は相手にしないからです。 「あ、この人は私とコミュニケイトしようとしている」と分かる人とだけ、人は会話を始めますからね。 「あ、この人は吐き出してるだけだ」と感じる人とは、誰も話したいと思わないでしょう。  で、この話は道徳の話ではなくて、長い時間をかけたら、「世間」を強化することより、「社会」を強化することの方が、自分の世界が広がり、結果的には幸せになるんじゃないかと、僕は思っているということです。  また、詳しく、書きます。
ドン・キホーテ 笑う! (ドン・キホーテのピアス19)

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