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変化を嫌ってきた日本人にコロナ禍が教えてくれたこと/鴻上尚史

何が正しいと思うか、自分の頭で考えること

 そうするには理由があります。  検察庁法改正案の審議が行われた時に、芸能人が反対を表明したら、「もっと勉強してから発言しろ」という言い方が一部に広がりました。日本人は真面目なので、この言い方に納得してしまいます。  でもね、例えば、休業補償の財源として国債を、と主張するMMT(現代貨幣理論)に対して、経済学者の中には賛成も反対もあるわけです。これをちゃんと勉強していたら、たぶん何年も何十年もかかります。それまで、発言できないことになります。でも、現実は進みます。  PCR検査の大幅な拡大は意味がないと感染学者が言います。一方、ニューヨーク州では希望者全員に無料で検査が受けられ、イギリスは国民全員に定期的にPCR検査を行うことを決定しました。 「GO TO トラベル」を菅官房長官は、「やらなかったことを考えたら大変なことになっていた」と答え、岩手県知事は、「失敗と言っていいと思う」と答えました。  政府に対して明確な信念、熱烈支持か断固批判かの意見がある人以外は、今まではなんとなく「大きなもの」の判断に身を任せてきました。  一つ一つ自分で判断するのは大変だし、勉強不足だし、「大きなもの」に任せて今までなんとかなってきたからです。けれど、一人一人が「自分は何が正しいと思うか」を考えろと、コロナは私達に突きつけたと僕は思っています。

コロナ禍を生き延びる道

 世田谷区がPCR検査を保育士や介護士2万人に無料で実施するという決定をどう考えるのか。意味があるのかないのか。子供を保育園に通わせている人とそうでない人では判断が分かれるかもしれません。 「GO TOトラベル」に東京を追加する動きをどう思うのか。  今まで「世間」の判断に任せて来た人は、どこかに正解があると思いがちですが、私達は未曾有の事態に直面しているのです。誰にも絶対の正解なんて分からないのです。 「世間」ではなく、自分の頭で考えることがコロナ禍を生き延びる道ではないかと僕は思っているのです。
ドン・キホーテ 笑う! (ドン・キホーテのピアス19)

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