こういう詐欺師って、とっ捕まった時のことを考えていない馬鹿が多い。いざ身柄を抑えられると、おしゃべりマシーンになるんだよな。 　暴行は加えずに適度な恐怖、そして数分先への不安を与えれば、自己弁護のためにペラペラと顎が回転し始める。 　だがそこから出てくる言葉は九割嘘なワケで、俺たちは携帯電話を取り上げるんだ。 　プロの詐欺師は捕獲される場合に備えて個人情報があるものや、本チャンの電話は持ち歩かずに集金しに来るものだが、Nはまだ若く修羅場の経験もない。 　詐欺の証拠丸出しのLINEの内容、カメラロールからも運用実態がない証拠の「集金即お買い物」の写真数々――。 　俺たちはこういう場面に立ち会うことが人より多いせいか、ちょっとした事では驚きもしないんだ。 　でも、Nはその想像の斜め上を行っていた。斜め上の裏の斜め左とでも言おうか。とんでもないことがわかったんだ。 　それはNの家族全員がNがポンジで詐欺をしていることを知っていたということ。 　株式会社Nとでも言えばいいのかーー簡単に言うとNは騙し取ってきたカネを母親、父親、嫁、嫁の妹に振り分けるんだ。 　何より驚いたのが、母親と父親で取り分で揉めていたりするんだよ。 母「集めてきたお金はママがしっかり管理するからパパにはお小遣いくらいしか渡さないで」 嫁「被害者に取られちゃうかもしれないから、一旦うちにお金置きに戻りなよ」 　こんな内容のやり取りがここでは書ききれないほどにあった。 　実家は平塚の3階建てのボロアパートなのに母親は新型ベンツを乗り回している。 　詐欺で得た収益は当然申告なんかしていないから、審査の問題で賃貸マンションは良いところも借りられないし、そのままなのだろう。 　名義代行を使うテクニックなんかもあるが、Nファミリーは基本的に馬鹿だから、思いつかなかったのかもしれない。 　とにかくこの家族の豪遊っぷりと来たら凄まじいもので、この浪費の数だけ被害者の涙があるとなると、自分が被害に遭ったわけでもなく、ただビジネスで切り取りをしているだけの俺でも怒りが湧いてきたくらいなんだ。 　ここからはコンプライアンスの問題で、編集者から大幅に改稿の要請があったので、エッセンスがきちんと伝わるようにしつつもある程度ボカシながら書き直す。 　簡単に説明すると、100点満点中だと62点くらいの詰め方をしたら、身柄確保後すぐに1200万円くらいの回収はできた。 　ただし被害額3億のうち、依頼を受けているだけでも9200万。全然足りない。 　そうなると本人に金策をさせるしかなく、何か入ってくるあてはねえのか？　なんて話になるんだけど、Nは「宿泊している高級ホテルに行ければすぐに6000万返せる」なんて言い出したんだ。 　俺たちは逃がさないようにNを囲みながらホテルに移動する。 　しかし45階のラウンジでNが接触したお金を返してもらえる相手というのは、ただの被害者だった。 　債権者同士をぶつけて自分を取り合いにさせて逃げようとしたんだろうな。 　そこから色々あって、そこで知り合った被害者の方がこちらより被害額も大きいこと、そしてこちらはもうブロックひとつは回収していることを加味して身柄はその被害者に預けることにしたんだ。 　そうしたら、そのグループも結局プロではなかったんだろうな。朝方逃げられたと報告があった。 　その足でNは警察に駆け込み、俺たちは簡単な事情聴取を食らった。 　Nは電話番号も告げず、住所も嘘をついて警察に相談に行っていて、奥歯に物の挟まったような言い方しかしないもんだから逆に疑われていた。 　結果的に俺たちはなんともないし、逆に30人からの被害者を署に行ってもらってNの悪行を倍返しでチンコロさせておいたワケだが、いったいどんな神経で警察に助けを求めたというのか。俺にはワケがわからなかった。 　Nは執行猶予中で、全国各地で被害届が何枚も出されているような詐欺師なのに、警察に駆け込むことが怖くなかったのか。 　件のベンツを乗り回してるママも一緒に来たと刑事が言っていたから、共犯がバレるのを恐れたママの入れ知恵なのか。 　これを書いているのは金曜朝。今のところはそんな感じだ。 　電話は必ず5秒以内に出て、返済が遅れたら「すいません！」とでも言っていれば、ゆるく長期で回収してやろうと思っていたのに、今回はかなり腹が立った。 　詐欺師と切り取り屋の間にも一定のルールがあって、犯罪者のくせにデコ（警察）なんかに助けを求めるようならもう駄目なんだよな。 　何でもありで逃げようとするなら、こっちだってギアをひとつやふたつ上げないといけなくなる。 　Nの結末がどうなるのか。 　またこの連載でも報告したいもんだぜ。 　もちろん馬券をしっかり的中させた報告とともにな。