僕と僕の係長/でこ彦<第2話>「“おかま”と拒絶され続けた僕の唯一の救い」
後日、現像された写真を一枚もらうと本棚のゴミ箱の中にしまった。
なよなよしている僕を矯正するでも揶揄するでもなく、腕を広げて迎え入れてくれる男性は藤浪先生が初めてだった。小学生の僕にとって、あの膝は「おかまでもいいのだ」という許し同然に思えた。家でも学校でも「おかま」と拒絶され続けた僕にとって唯一の救いに見えた。
「男が男を好きなわけがない」という念仏はもはや意味がなかった。テレビを消そうがドラマは放送されており、服で覆い隠そうがちんこはぶら下がっていた。藤浪先生が好きだという感情はくっきりと存在していた。
約20年経つが他人のちんこはまだ気になる。太いもの、細いもの。上向き、横向き、下向き。こちらを向くもの、見向きもしないもの。どうせ同じような具合のものしかないのだから気にしたくない。気にしていることを係長に知られたくない。鏡ごしに見ようとしていたことがバレたらどうしようか。僕がゲイであることを受け入れることと、僕の好意を受け入れることは別物だ。僕の恋愛感情のせいで怯えさせるかもしれない。
どんな表情をしているか、居酒屋で焼き鳥をつつく係長がうつむいた隙を狙って見ることしかできない。こちらを一瞥することなく係長が時計に視線を移した。そろそろ帰るという合図だ。
「次いつ会いましょうか」
僕の質問を受け、係長はハイボールの氷をかき混ぜながら、
「奥さんからあまりお前に期待させるなって怒られててさ。期待ってなんなんだろうね」
と、試すような笑みを投げてきた。うろたえる様子が係長からはよく見えただろう。
新しい約束は結ばれず、組み替えた膝がテーブルの下で静かにぶつかった。僕の係長は「当たってますが」とよそよそしく呟いた。
その膝の上に座らせてもらえる日は来るだろうか。

文/でこ彦 題字・絵/二口貴之

―[僕と僕の係長]―
'87年生まれ。会社員。Webメディア『telling,(テリング)』で「グラデセダイ」を連載中。好きな食べ物はいちじくと麻婆豆腐 【関連キーワードから記事を探す】
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