恋愛・結婚

僕と僕の係長/でこ彦<第6話>係長の「頑張れよ」は遠く先まで照らす灯のように頼もしい

 駅前のパーティー会場につくと、まずその地味さに拍子抜けした。係長も戸惑っていたので同じく勘違いしていたのかもしれない。  婚活パーティーと聞いて想像したのは、ソファや噴水の設置された会場でボーイがお酒を配り歩き、男女があちこちで談笑する様子だった。  しかし実際は、間仕切りのついた机が縦3列に並べられた会議室のような場所だった。図書館の自習スペースだと案内されても信じただろう。  各机には女性が座っており、男性がひとりずつ隣に配置され、ベルトコンベア式に移動していく流れだった。5分ずつの短い会話を15人と交わし、その中で恋人候補や連絡先を交換したい人が見つかれば事務局が仲介役となる。食事もお酒も噴水もなければ自由時間もない、パーティーとは名ばかりの、筋トレメニューじみた小刻みな時間割だった。  係長は「同じ会社の先輩・後輩の設定でいこう。お前は最近仙台に転勤になった」と暗示をかけるように囁いて以降こちらを見ることもなく、婚活を楽しんでいるようだった。係長がお喋りした女性は、5分後に僕が隣に座る相手となった。「僕の係長と何を話してたんですか」と聞けたら楽になれただろうか。より辛くなっただろうか。  女性の中には「人数合わせで来ました」とはじめにはっきり宣言する人もいた。何らかの予防線だったかもしれないが、それはかえって僕の不安を煽ることになった。  本気の婚活でない者同士、彼女たちと係長が意気投合して連絡先を交換したらどうしよう。係長を奪われるのではないかと焦るが、僕が取れる策は何もなかった。泣きながらこの場で転げ回ればパーティーそのものが中止になるかもしれない。そんな妄想を抱きつつ、おとなしくおすすめの仙台名物やセリ鍋の作り方を聞いて回った。 「あーあ。カップル成立ならずだった」  約2時間かかったパーティーが閉会し、仙台駅前の歩道橋を係長と栄介くんは残念そうに、しかし弾むように駆け下りていった。じゃれる小犬のようなその姿からは、15年前の彼らを簡単に想像することができた。 「でも係長、連絡先もらってたじゃないですか」 「うん、2枚」  もらった連絡カードを手にさっそく「お友達登録」をしていた。人数ではなく枚数でカウントするので、腹がチクリと痛んだ。  気を紛らわすべく15年後の僕と係長を思い浮かべようとした。その頃は係長の下の子供、すなわち僕たちの子供は高校生になっている。成長した子供と少し老けた係長は出てくるが、その横に僕はいなかった。  僕は何だろうか。性欲を共有できる栄介くんにはなれない。家で帰りを待っている妻にもなれない。無条件で何年先も一緒にいられる子供でもない。浮気相手にもされない。「俺ら」にも入れてもらえない。何になれるのだろう。こんなことを考えるのももう何度めだろうか。 「お前、置いてくぞ」  横断歩道の向こう岸から係長が手招きをしていた。駆け寄ると、「転ぶなよ」と呆れたように笑っていた。
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その後も数軒の居酒屋をはしごし、深夜2時過ぎに解散となった
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