僕と僕の係長/でこ彦<第6話>係長の「頑張れよ」は遠く先まで照らす灯のように頼もしい
その後も数軒の居酒屋をはしごし、深夜2時過ぎに解散となった。栄介くんと別れ、僕の泊まるホテル近くまで係長が一緒に歩いてくれた。ようやくふたりきりになれたので、「たまたま方向が同じだからだ」とそっけないのも気にならなかった。
係長の腕にすり寄ると、「近いな」と嫌な顔をしたが、いつものように引き剥がしはしなかった。仙台の夜風は冷たく、背の高い係長は良い風除けになった。係長は熟知しているのだろう、マフラーをマスクのように顔に巻きつけて対策していた。
「大丈夫か?」
目が合うと尋ねられた。何について聞かれたかは分からなかった。
寒さ、夜更かし、冷たい態度、俺たちの蛮行。
「お前がどんなに俺のこと好きでもこの恋は実らないが、大丈夫か?」とも聞こえた。大丈夫だろうか。
この日初めて係長の顔を正面から見た気がした。大丈夫になった。
「頑張れよ」
ホテルの前に着くと、やはり何に対してか不明だがそう言い残し、横断歩道を渡っていった。背中をしばらく見つめるも、もう振り返りはしなかった。
2年経った今でも「頑張れよ」に助けられている。係長と具体的な約束がなくても、遠く先まで照らす灯のようにその言葉は頼もしい。
係長と僕には例えば「結婚」「友達」みたいな枠組みは必要ない。余白のある「大丈夫か」で僕は満足なのだ。
しかし、かと思えば、分かりやすい名称が欲しくなる。先延ばしにして逃げ切るより、告白して15年後の僕のあり方を係長に決めてもらいたい。それが失恋であろうと、係長から与えられたものなら満足するのだ。いや、やはり係長には嫌われたくない。
考え始めるとぐるぐると螺旋を描いて転げ回ってばかりいる。1年後ですら僕と係長がどうなっているのか見当つかない。そしてその暗闇が大して難儀にも感じない。係長由来で発生する感情は、辛苦であろうと希望なのだ。
文/でこ彦 題字・絵/二口貴之
文/でこ彦 題字・絵/二口貴之
―[僕と僕の係長]―
'87年生まれ。会社員。Webメディア『telling,(テリング)』で「グラデセダイ」を連載中。好きな食べ物はいちじくと麻婆豆腐
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