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Z世代を牽引する最注目アーティスト・雪下まゆの作品に漂う“不穏さ”の正体

不条理の刹那に美を感じる

雪下まゆ――最初にそうした共感を覚えた映画は何でしたか? 雪下:中島哲也監督の『告白』です。教室の中って、生徒たちが騒いでうるさいのに、どこにも逃げ出せない閉塞感がある。その空気が作品に溢れていて、「私、まさにこの環境にいる!」って。後で『告白』のメイキング動画を観たとき、わざと教室の窓ガラスをすりガラスにして教室の閉塞感を演出していたと知り、「映画ってすごいな」と驚きました。それから『イージー・ライダー』や『明日に向って撃て』といったアメリカン・ニューシネマやデヴィッド・リンチ作品など、世の中の不条理を描いた映画を観るようになりました。 ――時代や社会になじめない人々を描いた作品が多いですね。 雪下:若者が自分の生き方を模索しながら、結局は時代や社会の波にのまれ、死んでしまう。そんな不条理の刹那に美を感じます。最近観た映画では『クラッシュ』がすごくよかった。自動車事故に性的興奮を求める人々の映画ですが、「求めるものの先にたまたま死があるのであれば死んでもいい」という生き方には共感しました。

自分の未来を自分で想像するのはムダ

――では、これをやらずには死ねない、といった夢はありますか? 雪下:「将来どうなりたいの?」とかよく聞かれるのですが、あまりないんです。「雑誌で映画のイラストコラムを連載したいな」とか、身近な願望や興味はありますけれど。 ――絵を仕事にしたいという幼少期の夢が叶ったからでしょうか。 雪下:絵のお仕事をいただけるようになっても、次は「来年もこれで食べていけるのかな」という不安が常に湧いてくるし、叶ったとは思わない。だから、これからどうすればいいのか、ずっと悩み続けなきゃならないし、思い描いた未来がそのまま現実になることなんてない。たとえば、今日着ているジャケットとシャツは昨年6月に自分が立ち上げた「Esth.(エスター)」というアパレルブランドのものですが、数年前には自分が服のデザインをするなんて考えもしなかったこと。極端な話、明日死んでしまうかもしれないし、それでもいいと思っているから、自分の未来を自分で想像するのはムダだし、意味がないと思います。
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他人に評価されても孤独は減らないまま
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