川上：セカンドキャリアの大変さは、周囲から見てるイメージと自分自身が感じているものは違う気がするんですよ。この業界の女の子って、もともと自己肯定感が低い子が多いんです。自信がないから脱いでセックスした流れってあると思うんです。そういう意識の「私なんてAV女優やってたから」って子が芸能界で頑張ろうしてもよくないし、私も実際にそういうのが漏れてたこともあったと思います。でも、その被害者ヅラに演者さんやスタッフさんが警戒するし、次に行けないって気づかされて、私は一人の役者なんだって意識に更生するのが一番難しかったですね。 峰：芸能界で生きるには、そういう心持ちも大事なんですね。 川上：打ち上げとかで有名な俳優さんと一緒になってもプライベートで飲んでても「私なんかが」ってなったり。逆に相手も楽しくその場では喋ってたのに「一緒にいるのを見られたくない」とか、クランクアップで写真を撮ろうとしたら事務所NGがあったり。実際に明確な差別を受けてきたけど、それが怖かったら次にいけないなって。差別があっても「自分は自分」って胸を張っていかないと、プライベートでの結婚とか、パートナー作りも上手くいかないです。 峰：芸能と違って出版業界はそういうところユルいからなぁ。犯罪者が普通に本を出してるし（笑）。ゆるゆる。 川上：今は海外案件をやってるんですけど、そこはまた日本の芸能界とは感覚がぜんぜん違うんです。個人ホームページに「元AV、元ストリップ」って書いてないことを「ベッドシーンが得意な女優なのに、どうして？」って言われるんです。それは武器になるから言っていくべきだと。海外進出も目論んではいるんですけど、やっぱり日本が好きだから、日本のマーケットで認められていきたいですね。 峰:というか根本的に、セカンドキャリアについてはAV出てたから云々ではなく、どんな人もマンガ家になるのも俳優になるのも難しいことなんですよ！　事務OLになるとかなら、そんなに難しくないと思う。いや、どうだろう。それはそれで別の難しさはあるか。パワハラ・セクハラの嵐で超厳しいってこともあるかもしれない。風俗だって、それはそれで難しいだろうし。 川上：結局、簡単な仕事ってないんですよ。AVに出てたから大変なわけではなく、経験がないことをイチから始めるのが大変ってことなので。 峰：私なんて『アラサーちゃん』の内容は基本AVとは関係なかったけど、それで「ち〇ちんのお世話してたくせに」とか言われても、本当に意味がわからないし。 川上：偏見の目が遠回しにされている感じがありますよね。壁を向こうから勝手に作られている気がする。 峰：そうそう。AV女優への偏見もギャラのうちって。これ、同業の子からも言われることがあるんです。その度にぐぬぬってなってます。何でこういうの我慢しなきゃいけないんでしょうね。 川上：セックスシンボルって思われるのが嬉しいって心境にしたら楽になりましたよ。どの場に行っても、私はセックスシンボルだもんって（笑）。 峰：カッコいい!!! 川上：そうしたら、周りからの見る目がポジティブなものになったんです。その上で親密になった人には自分の陰の部分を伝えるようになったら、いい関係性がいっぱいできました。協力してくれる人も増えたし。 峰：自己肯定感が上がった部分はあるかもしれないですね。私、知り合いの奥さんから「寝取られる」みたいな意識を凄くされるんです。警戒されまくるんですけど「お前のしょぼい旦那となんかセックスするか！　この俺が！」と言いたい（笑）。 川上：あぁ～、わかります！　私もそれでめっちゃ縁切られますもん。友達から「彼氏を取らないで」とか。 峰：そんなわけねぇじゃん。そんな価値ねえよ！ 川上：まぁそれも「私はセックスシンボルだからしょうがないですけどね」って思うようにしたら楽しくなりました（笑） 【関連記事】⇒峰なゆかの育児マンガ「チャラいヒゲ、子を育てる」連載開始！ ●峰なゆか 漫画家。女性の恋愛・セックスについての価値観を冷静かつ的確に分析した作風が共感を呼ぶ。『アラサーちゃん　無修正』（全７巻）、『アラサーちゃん』（ＫＡＤＯＫＡＷＡ）はシリーズ累計70万部超のベストセラーに。『もっとオシャレな人って思われたい！』などエッセイも執筆 ●川上奈々美 AV女優、浅草ロック座専属ストリッパー。演技力には定評があり、『下衆の愛』『東京の恋人』『全裸監督』『ゾッキ』など映画出演も多数。2021年４月に、2022年1月を以てAV女優を引退、2月を以てストリッパーを引退することを発表した。今後は俳優業に専念していく （取材・文／もちづき千代子　撮影／山川修一）