恋愛・結婚

「鏡越しに…」安ホテルに住む外国人女性の誘惑に葛藤した夜

絶対に見ちゃダメだよ

hotel

※写真はイメージです

 その部屋にはベッド、タンス、テレビ、ビデオデッキ、CDコンポなど生活に必要な家具家電がひと通り揃えられ、ハンガーラックには何着もの服が吊り下げられていた。生活感に溢れており、彼女がここにかなり長く住んでいるであろうことをうかがわせた。 「ちょっと着替えるからあっち向いてて」  彼女がそう言って服を着替えはじめたので、僕はくるりと顔を背ける。が、その先にあったのは大きな鏡である。 「絶対にこっち見ないでね」  彼女は服を脱いであられもない下着姿になる。それがその鏡に丸見えになっていた。 「絶対だよ。絶対に見ちゃダメだよ」  彼女はバカなのか、それとも、わざとやっているのか。その真意がわからないまま、僕はその鏡をちらちらと見続けた。  着替えが終わると、彼女は僕にホットチョコレートを出してくれた。喉が焼けるかのように甘いそのドリンクをちびちびと飲みながらお互いの身の上話をした。  彼女の名前はエンジェルといった。アメリカ人だと思っていたのだが、違うらしい。が、その出身国は忘れてしまった。当時の僕は世界地理に疎く、知らない国名だったので、聞いてすぐに忘れてしまったのである。 「それはどこにある国?」  僕がそう訊くと、彼女は世界地図のヨーロッパの東のほうを指差していたような気がする。とにかく、エンジェルはニューヨークで女優になることを夢見てヨーロッパの東のほうから単身渡米してきたということである。

エンジェルの誘惑

「知り合いのディレクターに撮ってもらった私のPVがあるの」  彼女はそう言ってビデオデッキに一本のカセットテープをセットした。テレビ画面に映し出されたのは海沿いのどこかの公園である。そこにビキニ姿のエンジェルが立っていた。彼女はそのメリハリのあるセクシーなボディを見せつけるかのようにさまざまなポーズをとる。  それにしても、こうして見てみると、彼女の胸はかなり大きかった。Eカップ、いや、もしかしたらそれ以上あるだろうか。それが彼女の動きに合わせてぷるるんと揺れていた。  エンジェルの顔はタイプではなかった。が、その体の魅力には抗しがたく、僕の下半身は男として当然の生理現象を起こしてしまっていた。それを彼女に気付かれないよう、体勢をあぐらから体育座りに変えた。  何気なく視線をテレビから横に向けた。そして、はわわわわ……と気が動転してしまった。テレビに映っていたのとまったく同じものがそこにあった。僕のすぐ隣に座るエンジェルのタンクトップから胸の谷間が覗いていたのである。 「うううう……」  僕の性欲は爆発寸前だった。彼女を押し倒したいという獣のような衝動をギリギリのところで理性で抑え込んでいた。 「どうしたの? なんだかとても苦しそうよ」  エンジェルが僕の顔を覗き込んで訊いてくる。 「僕はぜんぜん大丈夫だよ」  しばらくして彼女はベッドの上に移り、艶かしい声をあげた。 「ああん……」  な、なんだ、今のは……。誘っている。あきらかに誘っているではないか! が、それでも僕はその誘いに乗るわけにはいかなかった。  恥ずかしながら、そのときの僕はまだ一度も女性経験がなかった。そして、はじめては絶対に好きな人と……と固く心に誓っていた。ここでエンジェルに僕のはじめてを捧げるわけにはいかなかったのである。  しかし、この部屋にいたら僕の理性が飛んでしまうのは時間の問題である。早々に退散することにした。 「もうそろそろ自分の部屋に戻るよ」 「もっとゆっくりしていけばいいじゃない」 「明日の撮影のために絵コンテを描かないといけないんだ」 「じゃあ、仕方ないわね。またいつでも遊びに来てね」  同じホテル内の自分の部屋に戻り、絵コンテの作成に取りかかった。が、脳裏にはビキニを着たエンジェルの姿がずっとこびりついており、絵コンテにはまったく集中することができなかった。
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ニューヨークに残るべきか否か
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