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『アイアムアヒーロー』極限状況での一杯にノドが鳴る!ーー南信長のマンガ酒場(6杯目)

度数96%の酒をラッパ飲みする理由とは?

 缶チューハイを続けざまに2~3缶開けたのち、さらに比呂美はリュックから日本酒の一升瓶を取り出し、英雄のコップに注いだかと思ったら自分は豪快にラッパ飲み。  二人ともいい加減酔っぱらってきたところで、英雄は「で、ピロミちゃんはぁ…ホントに処女なわけぇ?」とゲスな質問を繰り出す。普通ならセクハラでアウトだが、人類が滅びようかという極限状況下である。  さまざまな危機を助け合いながら乗り越えてきた二人であり(吊り橋効果も含まれるかもしれないが)お互い憎からず思っている。すでにスーパーでコンドームも入手済みだ。そこに酒の勢いが加われば、もうやることはひとつである。    しかし、そこで比呂美は「…覚悟あります?」と問う。「あっ…あるよ覚悟!」と答えつつ、質問の意図を理解していない英雄。「俺が…比呂美ちゃんを守る的な?」「いや…正直なところ…この危険な状況で守れる自信はない…」「根拠もないのに自信だけをアピールして女性の気を引くのって俺は大嫌いでホントにムカツクんだ」などとごちゃごちゃ理屈を並べているうちに、今度はアルコール度数96%のスピリタスをラッパ飲みしている比呂美。  なぜそんなものを飲んでいるのか。初めてのセックスへの緊張を紛らわすため? いや、それならもう十分飲んでいる。じゃあ、何のためか。比呂美は言う、「消毒!」と。    比呂美は一度ZQNに噛まれたものの、完全にZQN化することなく回復した。その理由や感染・発症のメカニズムがわからない以上、キスやセックスで感染するかもしれない。せめて強いお酒で消毒することでリスクを下げようというのである【図2】。 図2_18巻_page-0001
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【図2】96度のスピリタスで「消毒」しようとする比呂美の健気さよ。花沢健吾『アイアムアヒーロー』(小学館)18巻p72-73より (C)花沢健吾/ダーチャ

恋愛加速装置としての酒

 今般のコロナ禍で消毒液が品薄になった際に、酒造メーカーが高濃度アルコールを消毒用として販売したのを思い出す。  傷口を消毒するためにお酒を噴きかけるシーンは昔の映画やマンガでよく見た気がするが、強い酒を飲んだところでおそらくZQNウイルスには効果がない。それでも英雄が感染するリスクを少しでも防ごうとする比呂美の乙女心にはグッとくる。  もちろん英雄もグッときて(あえて自分の唇を傷つけて覚悟を示すというトンチキな行動がありつつも)二人は晴れて結ばれる。2話分32ページを丸々使って描いた処女喪失のシーンは、マンガ史上でもなかなか例がないほどに濃密かつエモーショナルだ。    臆病で優柔不断な英雄は、酒の力がなければそこまでたどり着けなかったかもしれない……と言いつつ、いざとなったら腹が据わるタイプではあるが、いずれにしても酒は恋愛加速装置としても機能する。  同じ作者の『ボーイズ・オン・ザ・ラン』や『ルサンチマン』でも酒の勢いでうまくいったり失敗したりという場面があった。意図的に相手を酔わせてどうこうしようというのは犯罪だが、時と場合によっては一歩踏み足すために酒の力を借りるのも悪くはないだろう。 文/南信長●1964年大阪府生まれ。マンガ解説者。著書に『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『やりすぎマンガ列伝』『1979年の奇跡』がある。2021年12月3日に『漫画家の自画像』(左右社)が発売
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