「笑い殺せる」でハマった地下の沼

──ただ、東京のライブシーンでは、知る人ぞ知る実力者として注目される一方、M-1では一昨年まで4年連続で準々決勝敗退でした。
芝:僕らがこのスタイルを確立したとき、「このまま行ったら、いつか人を殺せる。笑い殺せる」って思ったんです。それくらいウケた。でも、それが同時に落とし穴でもあって。
ともしげ:芝くんは僕が一度ウケたくだりを再利用しようとすると、「養殖になるな!」って、いつも怒ります。一生懸命やって、その上でミスをしてしまうから面白いのであって、あらかじめ用意した必然性のないミスは笑えないって。だから、ネタ合わせもほとんどしないし、「その場で目をつむって全力疾走しないとダメなんだ」って。
芝:「ふざけてないから面白い」というのが、僕の信念としてあるんです。毎回出てしまう癖のようなものならいいけど、「ボケたな」と思ったらもう使えない。だから、たとえば美川さんのネタにしても、全力疾走した結果、まったく解決せず、ひとつも前に進まず、なんなら全ミスで終わってしまってもいい。
ライブでネタをおろすときはまさにそんな感じで、2人ともビンビンに感覚が研ぎ澄まされているから、実際に一番ウケるし、袖にはけたときにはもう舞台で何を言ったのか、何でウケたのかも覚えていない。「笑い殺せる」って感覚まで行けるのは、そんなときです。このスタイルなら、行くところまで行ける。そういう手応えが、次第に僕らを麻痺させていったんです。
目をつむって全力疾走すれば、芝くんが受け止めてくれる
ともしげ:密室系というか、お客さんとの距離が近いアングラな劇場だと、なおさらウケるんですよ、僕らみたいなのが。芝くんは「芸人なんて、そんなエラそうなもんだと思うな」ともよく言ってました。当然、ネタの尺なんて考えないし、衣装にも無頓着。僕に至っては裸足だったし。
芝:今、冷静に振り返ると、ちょっと怖くなるくらい感覚がおかしくなっていました。そうやって、地下のノリやアドリブ上等のライブ感にとり憑かれていったから、ネタ見せ番組のオーディションにはまったく通らない。でも、ライブならウケるし、売れない芸人仲間もいる。そんな日々のなかで、「一生懸命」「全力疾走」とは言いつつも、何も考えず、焦ることもなく、なんとなく時間だけが過ぎていったんです。
──それが昨年、一気に決勝進出まで突き抜けました。何か変化があったのですか?
芝:コロナ禍がめちゃくちゃ大きいです。それまでは意外と毎日どこかでライブがあって、まがりなりにも芸人やってる感はあったんですよ。それがまったくのゼロになって。
ともしげ:芝くんと公園で話す時間がすごく増えましたね。
芝:いろいろ話して結局、たどり着いたのが「俺たちって何なんだろうな」って最初の地点。芸でお金を生み出しているわけでもないし、「存在してる意味あんのか?」って。
ともしげ:芸人としての月の給料が5000円とかでしたから。芸人がアルバイトしてるのか、アルバイトが舞台に立ってるのか、わからないですよね。