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10%の金利で預金しても損をする…人々を惑わす「貨幣錯覚」とは/上念 司

貨幣錯覚だと侮るなかれ

お金 幻想 ところが、多くの人はいちいち実質化して考えません。30万円の給料が60万円になれば「給料が2倍になった!」と大喜びして、バンバンお金を使い始めます。給料明細に書かれた数字を、その時点での物価で割り戻すような変わった人は極めて少数派です。  このように、人々は貨幣の名目的な価値に囚われて行動します。だから、毎年100円でもいいから給料が上がれば、仕事にやる気が湧いてくるのに対して、100円でも下がるとやる気をなくしてしまうわけです。貨幣錯覚を錯覚だと侮るなかれ。これが働く人のやる気の源泉なのです。  損失を強調した表現は、人々に損失回避を強く意識させます。同じく、名目的な給料のマイナスは私たちを大いに不安にし、それを回避するために変な考えを起こさせるわけです。私がかねてから提唱している歴史法則。「経済的に困窮した人は救済を求めて過激思想に走る」はまさにそれです。コロナショックで経済が不安定化したせいで、過激思想に走る人が出てきていますよね? 例えば、反ワクチン陰謀論とか。  実はこの困窮の水準って割と浅いんです。もらえるお金が減っていなくても、増えていないだけで人々は変な考えを起こしてしまう。2009年の民主党政権誕生はまさに大衆の危うさを象徴する出来事だったのではないでしょうか? <文/上念 司>
1969年、東京都生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。在学中は創立1901年の日本最古の弁論部・辞達学会に所属。日本長期信用銀行、臨海セミナーを経て独立。2007年、経済評論家・勝間和代氏と株式会社「監査と分析」を設立。取締役・共同事業パートナーに就任(現在は代表取締役)。2010年、米国イェール大学経済学部の浜田宏一教授に師事し、薫陶を受ける。金融、財政、外交、防衛問題に精通し、積極的な評論、著述活動を展開している。
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あなたの給料が上がらない不都合な理由

日本人が囚われている貨幣の幻想を打ち砕く“経済の掟"

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