ライフ

不毛な奢り奢られ論争に終止符を打つため、おっさんがおっさんに奢られてみた。その悲惨な結末とは

ようやく、石川さんと通じ合えた気がした

 育ち盛り真っただ中というわけでもないけど、まだまだ若かった僕はかなり食べた、脂っこいものをけっこういった。そして、かなり飲んだ。そして石川さんと色々な話を交わしたのだ。 「俺は本当に人に奢りたくないんだよ。でもまさか、あの謎を解くとはな。お前は店長が怖くないのか。ありゃ人を殺しているぞ」  そんなことを言っていたと思う。本当に奢りたくなかったのだろう。それを乗り越えて奢って貰えた。石川さんと心が通じ合えたような気がした。 「ごちそうさまでした」  深々とお礼をする。 「たくさん食べたなあ」  お会計はそこそこの額になってしまった。 「おばちゃん、これツケといて」  石川さんは、給料日払いのツケを選択した。今日が給料日なので、1か月後の給料日に天引きされるというわけだ。  やっと石川さんと親密になれた。僕の心は満たされていた。

翌日に迎えた衝撃的な結末

 次の日。  石川さんが夜逃げした。  出勤してこないので寮を見に行くと、もぬけの殻だったらしい。それを受けてスキンヘッド店長が見たことないレベルで激怒していた。あれは絶対に人を殺している怒り方だった。  石川さんはどうしても僕に奢りたくなかったのだ。そう、飲食代をツケにし、次の給料日払いにして夜逃げする。そうすれば天引きされることはないのだ。結局、石川さんのツケは僕の給料から天引きされることとなった。  どうしても奢りたくないから夜逃げする。たくさん飲み食いしたといってもたかだか定食屋だ。3000円くらいだ。世の中にはどうしても3000円を奢りたくなくて夜逃げする世界もあるのだ。それに比べれば、港区で繰り広げられる奢り奢られ論争などかわいいものだ。  この人と一緒に食事したいと強く思う方が奢ればいい、これでほとんどの論争は解決する。だからあの日の僕も、あれだけ石川さんを慕っていたのだから、僕が奢るべきだったのだ。そうすれば夜逃げもなかったと思うと、今でもキュッと心の奥底が痛くなるのだ。 <ロゴ/薊>
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

1
2
3
4