仕事

パワハラ議員や首長が増加するまさかの背景。「いったい何様?」な“グレーゾーン上司”の言い分と対処法

部下などの対応法

 部下の方々にはSさんへの対応法について次のようなことを伝えました。 ・SさんのASD特性について理解をしましょう。  →これによりSさんが部下を傷つけようとしたり、見下して発言しているわけではないことが分かり、部下自身のストレスマネジメントにつながります。 ・Sさんに報告などをするときは、結論から述べるようにしましょう。  →背景や理由などから説明しているうちに、混乱させたり、苛立たせたりする場合があります。 ・どこまでやれば仕事は完成したといえるのか、事前にすり合わせをしておきましょう。  →求められている部分や時間等について、お互いの認識のギャップが大きい場合が少なくないため、それを埋める必要があります。 ・Sさんの言い方に傷ついた場合は、「私は、Sさんの〇〇という言葉に傷つきました」と伝えましょう。  →Sさんは悪気なく言っている場合がほとんどですが、Iメッセージなどの技法を使って相手に自分の気持ちを伝えることは、自分の心を守るうえで重要です(自分を主語にして気持ちを伝える技法をIメッセージといいます)。 ・Sさんとのコミュニケーションが比較的とりやすいポジションにいる中堅社員に、やり取りの間に入ってもらったり、一緒に話してもらったりします。  →Sさんとポジションが近い人に介入してもらえば、緊張が薄れる、証人ができるなどのメリットがあります。

Sさんが選んだ新しいキャリアとは?

発達障害グレーゾーンの部下たち

舟木彩乃『発達障害グレーゾーンの部下たち』(SB新書)

 以上のようなことをSさんの部下たちに伝えたところ、Sさんに悪気はないことも分かり、コミュニケーションがとりやすくなったということでした。しかし、それでもSさんとしては、今のポジションにストレスを感じていることに変わりはありません。彼の依頼もあって人事担当者に状況を伝えたところ、人事とSさんとの面談が設定されることになりました。  そして、Sさんは次の異動のタイミングで、管理職というポジションではあるものの、実質上は部下がつかない部門でデータサイエンティストとして、新しいキャリアをスタートさせることになりました。異動後は、本人もストレスフリーで働き、実績も出しているということでした。  本件は、人事が介入したこと、規模が大きい企業であったことなどが幸いして、上手くいった事例です。しかし、そのような条件を満たしていない場合であっても、人事や専門家が公平な立場で介入して、各々の事情を把握し、部下に対応法をレクチャーしたり、両者の間に社員を介入させたりするステップが重要になります。 <TEXT/舟木彩乃>
ストレスマネジメント専門家。企業人事部や病院勤務(精神科・心療内科)などを経て、現在、株式会社メンタルシンクタンク(筑波大学発ベンチャー)副社長。カウンセラーとして約1万人の相談に対応し、中央官庁のメンタルヘルス対策や県庁の研修にも携わる。著書に『「なんとかなる」と思えるレッスン 首尾一貫感覚で心に余裕をつくる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある
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