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父親の“献金総額”は1億円。「自分の家は貧しい」と思っていた宗教2世の人生…地元にいると「なぜ献金しないんだ」と迫られる

結婚を機に住んでいた家を飛び出す

宗教二世

ぼかしがかかっていないのが、田中さんの家族

 現在、田中さんは地元を離れている。その理由もやはり旧統一教会が関係しているという。 「親族には信者もいますし、地元にいると顔見知りの信者が家まで訪ねてきて『なぜ献金しないんだ』と迫ってくるのが怖くて、母と一緒に誰にも言わずひっそりと家を出ました。夜逃げ同然でした。ちょうど私の結婚も決まっていましたし、父が残した借金の整理もついた区切りでもありました」  男性不信だった田中さんは、自らのトラウマと向き合うなかで徐々に他人とのコミュニケーションを行えるようになっていったという。 「先ほどお話ししたように、信者の男性から車のなかで性的いたずらを受けたことで私は男性が怖くなりました。統一教会の教義に染まって抜け出ることができない部分もあり、男性と話すのさえ恐怖を感じる時間が長く続きました。祖母の介護で打ちのめされているときには、医師から複雑性PTSDの診断が下るなど、心身ともに疲弊していて社会復帰など到底できる状態ではなかったと思います。  しかし、30代のころ、『このままでは私の人生は旧統一教会に飲み込まれてしまうのではないか』と思い、親しくしてくれる男性とはなるべく関われるようにしようと思ったんです。とは言え、最初は教義の通り『地獄に堕ちるのではないか』と考えてしまう場面もありました。本来は喜びとなるはずの触れ合いも、罪悪感があったことも事実です。しかし本当に少しずつ、現在の夫が解きほぐしてくれたおかげで心地よさを知ることができました」 =====  どれほど社会の規範や価値観とかけ離れた教えでも、それが絶対的尺度になれば俯瞰の視野をもつことは不可能に近い。強い洗脳によって心を支配され、高額献金の末に力尽きた父親。そして家族は同等以上の苦しみを味わい、なお後遺症に悩んだ。  田中さんは何度も「山上被告が他人と思えない」と呟いた。耐え難い苦痛を伴いながら、田中さんは呪詛に縛られずに自らの人生を切り開いた。それでも、救われなかった自らの半身が山上被告に重なる。国をあげてあらゆる救済の策が検討されているとはいえ、今なお彷徨う宗教2世は多い。彼らは記憶のなかで何度も慟哭する。信じる者ははたして、救われたか。 <取材・文/黒島暁生>
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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