清掃の依頼を受けたのに「家に入れてくれないことも多い」

また清掃の依頼を受けて困難に直面することも多々あるという。
「依頼を受けて、我々が現場に駆けつけても、ご本人が家に入れてくれないことも多いですね。そうなるとまずは信頼関係を築くところから始めていかなくてはならない。ご本人も家が荒れていることはわかっていて恥ずかしいから他人を入れたくないという気分や、知らない人に対する警戒心があるのかなと感じます。ご家族と一緒に説得する場合もあります」
認知症患者の家の清掃は孤独死現場の清掃より苦労することが多いという。
「なんとか説得して、清掃に入らせてもらって1日目が終わることもあります。それで翌日家に行って『おばあちゃん、今日もよろしくね!』と入ろうとすると『
あんた誰? 勝手に家に入らないで』と言われることもあります。
毎回、『明日は来るからね』『カレンダーに書いておくからね』と伝えるのですが、見ていないのか、『入らないでくれ』と言われたことは何度もあります。ひどいときは、記憶が混濁して、
宝石を取った犯人扱いされることもあります。本当に宝石があったのかは不明ですが、記憶が入り混じっているのでしょう」

ゴミ屋敷の作業3日目
ただし、警察を呼ばれてしまうリスクがあるため、無理やり入るなどの強行突破は絶対にしないようにしている。
「我々が清掃に入る日は、毎回ご本人の親族やケアマネージャーといった第三者に立ち会ってもらうんですが、立ち会いがいない日もあるので、最近は許可が取れたら自分たちの写真を冷蔵庫に貼らせてもらったりして、なんとか顔を忘れないでもらおうと努力をしています。どうしても家に入れなくて清掃できなかった場合は、お代はいただかないようにしています。そういった場合の
人件費はまるまる赤字になります」

ゴミ屋敷の作業5日目
認知症患者の部屋の掃除は心が折れそうになることばかりだ。しかし、諦めずに何度も記憶に語りかけることが大事だという。
「毎回、掃除の最初に 『昨日はここまでこういう流れの作業をしたでしょ?』などと断片的な記憶を呼び覚ます作業をしています。『このあんぱんカビが生えてるよ、って話したの覚えてる?』とか話しかけると、『あ〜、覚えてる。覚えてる』と記憶がよみがえることもあります。認知症患者の特徴として、全部忘れているわけではなく概念とかは覚えているので、とにかく記憶に揺さぶりかけます。時間が空くと忘れられてしまうので毎日通ってなるべく早く清掃を終わらせるように努力をしています」

ゴミ屋敷の作業7日目(最終日)
これからも増え続ける認知症患者とはどのように向き合っていけばいいのか。
「認知症患者本人と清掃の契約をして、清掃のついでに金品などを奪うような悪徳業者もいるようで、
対認知症患者との契約はかなりナイーブな問題となっています。我々は基本的に認知症患者と直接契約を結ばないといったスタンスを取り続けています。清掃作業はとにかく根気強く何を言われても諦めないことが大事ですね」
<取材・文/山崎尚哉>
(公社)日本ペストコントロール協会認証技能師。1992年、東京都大田区生まれ。地元の進学校を卒業後、様々な業種を経験し、孤独死・災害現場復旧のリーディングカンパニーである「
ブルークリーン」の創業に参画。これまで官公庁から五つ星ホテルまで、さまざまな取引先から依頼を受け、現場作業を実施した経験を基に、YouTubeチャンネル「
BLUE CLEAN【公式】」にて特殊清掃現場のリアルを配信中!趣味はプロレス観戦