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初日から「もう無理」「辞めたい」医療現場ですぐに辞めてしまう新人と先輩の悲哀

初日からメモ帳に「辞めたい」

悩む男女 Yさんの事例だけでなく、新人看護師がすぐに辞めてしまうことも医療現場では珍しくない。田中さんは理学療法士として働く一方、公認心理師、衛生管理者でもあり、さまざまな相談の窓口だった。  2年前に内科病棟に配属された新人看護師のMさん(女性)を担当した際の出来事である。  ショートカットで快活な雰囲気のMさんだったが、初日のオリエンテーション後の面談で、すでに表情が曇っており、こう言っていたという。 「今日だけで、もう無理だって思いました。患者さんが怖くて……」  田中さんは最初、冗談だと思って軽く受け止めたが、Mさんは真剣だった。配属された病棟は高齢者が多く、認知症患者の対応や急変対応も多く求められ、新人の指導にあたる先輩看護師も厳しいタイプだったという。  2日目、研修後にMさんがそっと差し出してきたのは、小さなメモ帳だった。「辞めたい」と書かれたページを開いて見せ、「どうしたらこの気持ちが変わるんでしょうか」と尋ねてきた。  田中さんは心理士、衛生管理者としての立場から、勤務環境の改善やサポート体制の見直しを提案した。  上司も交えた三者面談では、Mさんは涙を流しながら「責められている気がする」「優しくされたいわけじゃないけど怖い」と本音を吐露。 「その結果、指導の在り方を見直すとともに、プリセプター制度から別のフォロー体制へと一時的に変更され、職員たちの間でも『今の新人は繊細だから、関わり方が問われる』と話題になりました」

「もっと強くなりたかったけど、ここでは無理そうです」

 しかし、そんな努力も空しく5日目の朝、Mさんは「すみません。今日限りで辞めさせてください」と辞表を提出したのだ。  面談室で最後に交わした言葉は、「私、もっと強くなりたかったけど、ここでは無理そうです」だった……。 「その後、Mさんが精神的に追い詰められていたことが判明し、しばらくは実家で療養していたそうです。数ヶ月後、訪問看護の仕事を始めたと風の噂で聞きました。私自身も忙しくて至らなかった点が多々あり、サポートの難しさを実感しました」  現場では、短期間であっても、新人の心に大きな負荷がかかる。そんななかで個々の特性や背景を理解し、きめ細やかなサポートを提供することが、早期離職を防ぐカギとなるのは間違いない。どの職場においても重要な課題といえよう。 <取材・文/藤山ムツキ>
編集者・ライター・旅行作家。取材や執筆、原稿整理、コンビニへの買い出しから芸能人のゴーストライターまで、メディアまわりの超“何でも屋”です。著書に『海外アングラ旅行』『実録!いかがわしい経験をしまくってみました』『10ドルの夜景』など。執筆協力に『旅の賢人たちがつくった海外旅行最強ナビ』シリーズほか多数。X(旧Twitter):@gold_gogogo
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