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大阪・関西万博のパビリオン建築はなぜ遅れた?一級建築士が抱いた“万博への違和感”

「悪条件など存在しない」前提で走り出した

――なぜ情報共有が行われなかったのでしょうか? 森山:大阪府・市としては、万博の跡地を統合型リゾート(IR)など国際観光拠点に利用しようという思惑があるので、夢洲の脆弱さをあまり公にしたくない事情もあったのではないかと私は思っています。  だからこそ、「悪条件など存在しない」という前提で走り出したため、地盤データは募集要項の別紙にひっそり添付されるだけ。  しかも、募集要項は英語版しかないし、保険の細字条項のように“読めば理解できるけれども、気づかなければ終わり”といった程度の記載しかなかったようです。  結果、日本以外の各国は夢洲のイメージパースだけを頼りにデザインを進め、あとになって「こんな条件なら最初から構造を変えたのに」と頭を抱える羽目になったのだと感じています。

万博に感じた“責任感”の薄さ

ミャクミャク

EvergreenPlanet – stock.adobe.com

――度重なるコストの増加といった開幕前から取り沙汰されていた問題もありましたが、開幕後は、トイレの回転率、動線の悪さなども話題になりました。これら諸問題が起きた理由はなんだったのでしょうか。 森山:一番の問題点は「責任感のなさ」ですね。今回の万博では、開催直前になっても、“未完成”の空気が色濃く漂っていましたが、それに対して、万博関係者の多くの方がまるで他人事のように受け止めている。そこに私は最も大きな危機感を抱いています。  象徴的だったのは、万博開催前日。  会場デザインプロデューサーの藤本壮介さんが、インド大使館が未完成なことに対して、 SNSで「オープニング前日に大きなクレーンを入れてめちゃめちゃ大掛かりなことをやり始めるインド館……これぞ万博、さすがです、笑がんばれー」と励ましの言葉を投げかけていた場面です。  本来はプロデューサーである自分たちが責任を持って間に合わせるべきなのに、「頑張れ」で済ませてしまう。その他人事の姿勢こそ、今回の万博全体を覆う最大の問題だと感じました。  これは、藤本さんに限らず、自治体のトップも同様です。  大阪府市が万博を誘致した当初は勢いよく旗を振っていたものの、ここ一年ほど問題点が出るなど風向きが怪しくなると発言がめっきり減りました。ポジティブな情報は発信するものの、肝心の遅延やコスト超過、トイレの使い勝手の悪さなどネガティブな話題には触れない。  結果として、現場で必死に工期を詰めている施工者だけがペナルティを恐れて追い込まれる構図が続いています。これでは、不備等が起こるのも当然でしょう。
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組織のトップに色濃く広がる「減点主義」の闇
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建築エコノミスト/一級建築士 1965年岡山県生まれ。88年早稲田大学理工学部建築学科を卒業後、齋藤裕建築研究所に勤務。独立後は戸建住宅から大型施設まで数多くの設計監理業務に従事するかたわら、建築と経済の両分野に精通した「建築エコノミスト」として地方自治体主導の街づくりや公共施設のコンサルティングにも従事。いわゆる「新国立競技場問題」「築地市場移転問題」では早くからその問題点を指摘し、難解な建築の話題を一般にも分かりやすく解説できる識者としてテレビやラジオのコメンテーターとしても活躍する。 主な著書に『非常識な建築業界/「どや建築」という病』(光文社新書)、『ストーリーで面白いほど頭に入る鉄骨造』(エクスナレッジ)など。
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