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「出社前に自宅で涙が止まらなくなり…」退職代行で2社辞めた“リピーター”33歳、意外な場面で感じた“辞めグセの片鱗”

急増中!! 中高年の退職代行トラブル

 森本さんに限らず、職場で築き上げた人間関係を一瞬でゼロにしてしまうことも多い退職代行。会社への責任が比較的少なく、勤続年数が短い若者だけが利用していると捉えがちだが、さにあらず。40代以上の中高年にも利用者が拡大していることで、若者とは別の問題が発生しているという。  化粧品メーカーで人事を担当する栗原康介さん(仮名・43歳)は、そんな中高年の退職代行トラブルに巻き込まれた一人だ。 「昨年の夏、採用したばかりの店舗の店長(40代女性)が2日目に無断欠勤。その日に退職代行業者から電話で、『彼女は即日の退職を希望されています』と急に伝えられたんです。実績もあるベテランが『仕事が覚えきれないから』と退職代行で飛ぶなんて信じられません」  結果、栗原さんは現場からのクレーム処理と対応に追われた。 「社宅の解約違約金や代理人事の手配、新たな店長の採用費用など100万円以上の損害があった。辞める側は電話一本ですが、余計な仕事とストレスを増やされていい迷惑ですよ」

中間管理職の退職代行は損害賠償請求のリスクあり

[退職代行リピーター]の実態

弁護士・小澤亜季子氏

 中高年の退職代行トラブルはまだまだある。’18年から退職代行も請け負う弁護士・小澤亜季子氏に、40代以上の依頼者のトラブル事例を挙げてもらった。 「退職時、労働者は雇用契約上の義務として引き継ぎ業務を行う必要があって、裁判例もあります。『中高年で平社員だから』と引き継ぎもせずに退職代行を利用したことで、相手企業の顧問弁護士から損害賠償を請求され、退職はできましたが数十万円の和解金を支払ったこともある。また管理職になると、退職の連絡後に経費の不正利用や顧客情報の流出を疑われて、退職までに時間がかかることも少なくないですね」  また、退職に伴う手続きでトラブルに発展することもある。 「意外に多いのは、社宅に関わるトラブル。退職の申し出は2週間前でも可能ですが、賃貸借契約の解約は1か月前に予告するのが基本。なので、退去までの家賃の支払いなどで揉めることになります。社歴が長い場合だと、会社から貸与品の返却を求められても紛失していて交渉が難航するケースもありますね」  小澤氏は「退職代行業者では、それなりの対応しかできないと理解すべきです」と忠告する。 「最近では価格の安さや弁護士監修などを謳う代行業者も増えています。ただし、退職金や社会保険に関する書類などの交渉事項が多い中高年の利用はリスクが高いと思いますね。それなら弁護士に退職代行の依頼をし、引き継ぎについても相談したほうがトラブル回避に繫がります」  気軽に退職するのはいい。ただ人任せの退職には、思わぬ落とし穴があることを自覚したい。 【弁護士・小澤亜季子氏】 GK総合法律事務所代表。退職代行で40代以上の依頼者は約3割。著書に『退職代行「辞める」を許さない職場の真実』(SB新書) 取材・文/週刊SPA!編集部
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