「みいちゃんが殺されるまでの12か月」新宿キャバクラを舞台に描く衝撃作『みいちゃんと山田さん』。作者が明かす創作の裏側
2012年の新宿のキャバクラを舞台に、何をやっても”ちょっと足りない“新人・みいちゃんとキャバクラ嬢の山田さんら、夜の世界の女性たちを巡る物語、『みいちゃんと山田さん』が話題だ。ヤル気と元気はあるものの、漢字も空気も読めないみいちゃんは、周りから馬鹿にされ「可哀想」のレッテルを貼られてしまう。それでも、健気に働くみいちゃんの姿に、山田さんは徐々に心を惹かれていく。同作は、漫画アプリ「マガポケ」(講談社)にて連載中だが、かわいらしいタッチで描かれたみいちゃんと、内容のリアルさ・深刻さの対比で他の漫画と一線を画す。そんな彼女が殺されるまでの12か月の物語だ。
かわいらしい絵柄と反して、交際相手からのDVや、近親相姦、療育手帳を持つ幼馴染の存在といった設定のリアルさが人気を呼び、X上でも、様々な立場の人たちが感想をシェアしている。作者の亜月ねね さんに話を聞いた。
亜月さんは、東京都出身の女性で、美大の油絵学科を卒業している。だが、漫画の描き方を習ったことはなく、独学でX(旧Twitter)上で作品を公開していた。最初から漫画家志望だったのだろうか?
「子どもの頃はそういった夢をみることはありましたが、早い段階で諦めていて、SNSで発信していた頃は会社員として働いていました。イラストを描くことは好きでしたが、漫画家として商業出版をすることは無理だと思っていました。それなので、講談社より声がかかった時は、詐欺かと思いました」
すでにX上で10億インプレッション超えのバズりを見せていた同作を、講談社の担当編集者がスカウトしたことが出版のきっかけとなり、2024年の夏に商業での初連載が決まる。
SNSで発信していた当時はPhotoshopを使い作画をしていたが、商業での連載が決まると、漫画制作ソフトCLIP STUDIOを用いて、本格的に漫画執筆を開始した。
本書は、みいちゃんのエピソードやムウちゃんが療育手帳保持の障害者であることから、軽度知的障害ではないか等の感想が上がっているが、障害者福祉に興味を持つ層に向けて描いたのか?
「みいちゃんがどんな子なのかは、読者の判断にゆだねています。色々な感想を持つ方がいると思いますが、特に障害福祉を描く目的の作品ではありません。夜のキャバクラという、物語にしやすい舞台に、みいちゃんや山田さんといった性格が真逆のキャラクターを配置し、物語を作りました」
といっても、亜月さん自身が、みいちゃんやムウちゃんの様子を全くの想像から描いているわけではない。
「家の本棚にあった少年犯罪や心理学系の書籍を読んでいました。また、描くにあたって、支援学校の先生や風俗で働く女性たちの生活・法律相談等にのっている『風テラス』などの団体に取材に行きました」
リアリティの源は成育環境や取材をもとに描かれているからのようだ。
作中コラムで、みいちゃんのモデルは実在の人物だとあるが、彼女とはどんな関係だったのだろうか?
「私の昔の知り合いです。妙に距離感が近かったり、作中のみいちゃん同様、DV男と付き合っていたりする女性でした。グラスを割るなどミスが多く、遅刻もよくしていました。でも何故か憎めない、そんな子でした」
作品の舞台は、2012年の新宿のキャバクラ店だが、そこにもこだわりがあったという。
「今と違って、夜職の扱いは、アングラ感が強かったです。一部の人は華やかでしたが、働いている女の子は訳アリな人が多かった。今は、夜職がカジュアルになりましたよね。SNSがまだまだ黎明期で、変な子がいても不思議ちゃん扱いされる、いろいろなことが手探りの時代。そんな2010年代の独特な雰囲気を再現したかったです」
モデルの女性はみいちゃんのように明るく吹っ切れた子だったのか?
「話していても抜けている感じの子でした。明るいかと思うと、鬱っぽい時もあって……」
亜月さんはそんな彼女に興味を持った。

作者の亜月ねねさん
取材や成育環境に基づいたリアリティある物語
みいちゃんのモデルは実在の人物

立教大学卒経済学部経営学科卒。「あいである広場」の編集長兼ライターとして、主に介護・障害福祉・医療・少数民族など、社会的マイノリティの当事者・支援者の取材記事を執筆。現在、介護・福祉メディアで連載や集英社オンラインに寄稿している。X(旧ツイッター):@Thepowerofdive1
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