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「日本人は哀愁民族」河合優実(24)が体現する伝統的魅力。『あんぱん』で見せた“無言の演技力”に注目集まる

手足の長さが“映え”にも繋がる

3番目は「姿」である。河合は身長166cmだから、平均的。ただし、首と手足が長く、顔が小さい。 この身体的特徴が生きたのが『ナミビアの砂漠』。河合が演じたヒロインは同棲相手の男性とよく壮絶な取っ組み合いのケンカをした。映画に欠かせない場面だった。この場面が映えたのは河合の手足が長いから。 この映画では走るシーンもよくあったものの、河合の演技プランからか一般的な走りとはとはやや異なった。ちょっと浮くように走り、目を惹いた。ヒロインは典型的な自由人なのだが、それが走りにも表されていた。これも手足の長さが生かされた。 このヒロインは21歳。2人の男性と交際する。片方の男性と別れる際には一方的に逃げた。新たな男性のことは「おまえ」呼ばわりし、「死ね」とまで言うものの、ときには態度をあらため、殊勝になる。その変化に違和感をおぼえさせない背景には演技力があるが、やはり素質もある。河合本人に崩れたイメージがないからだ。どんなにやさぐれた女性を演じようが、無垢な地点へと戻って来られる。 『あんのこと』のヒロインもそう。覚せい剤に溺れているころは荒みきった表情をしていたが、更正すると、ピュアな少女に一変した。ギャップはなかった。『不適切にもほどがある!』で不良高校生から母親に変わったときも同じである。

大手ではなく“映画がやりやすい”事務所を選択

東京都練馬区の出身。父親は医師で母親は看護師。小学3年生からヒップホップダンスを習った。体の使い方がうまいのは運動神経がいいせいか。高校はOGにホラン千秋(36)らがいる都立国際高校である。偏差値68とされる上位進学校だ。 演出家たちは「俳優と学歴は関係ない」と口を揃える。ただし、頭は良いほうがいいともいう。役づくりには頭を使うからである。 河合は日大芸術学部演劇学科に進むものの、同時に現在の所属事務所・鈍牛倶楽部の門を叩き、ほどなく大学は中退する。俳優には必ずしも学歴が必要ではないことが分かっていた。 同事務所にはスカウトされたわけではない。ネットで自分に適した事務所を探し、入所した。これも非凡だった。芸能界志望の若い女性は有名な大手芸能事務所を目指しがちだからである。ただし、その道を選ぶと、バラエティなど俳優以外の仕事も入ってきやすくなる。 同事務所はオダギリジョー(49)ら俳優1本に絞っている所属者ばかり。そのうえ映画制作や配給を手掛ける木下グループに属しているから、映画に滅法強い。河合は2019年のデビュー以来、実に28本もの映画に出演した。うち主演作は5本。ドラマは18本。うち主演作は4本である。 映画を主な活動場所にしたことが奏功しただろう。本人も映画がやりやすい事務所を選んだのではないか。映画の仕事は演技力が高まる。長い時間をかけ、稽古をしっかりやるからだ。 民放のドラマは1990年代以降、稽古をほとんどやらなくなった。俳優が忙しいことに加え、制作費を節約するためである。TBS『グッバイママ』(1976年)などを撮った元TBSの大物ドラマ人・堀川とんこう氏はこれを深く憂慮していた。今、きちんと稽古をするのはNHKだけなのである。 河合は何年かに1度の天才なのかもしれない。素質に恵まれたからだが、それ以上に本人の努力や仕事に取り組む姿勢が大きい。 文/高堀冬彦
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員
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