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「冷房をつけるな」患者の要望で熱中症に倒れた“高齢の介護職員”。シニア転職の危険な現実、専門家が指摘

灼熱の厨房で熱中症になったシニア

 では、シニアの転職を支援する中で見聞きした、シニアワーカーが熱中症になった例を紹介しよう。どんな場面で熱中症になるのかの参考にしてほしい。  まず、熱中症になった体験をもっともよく聞くのが「料理人」。調理の仕事をしているシニアだ。  火を使う厨房は高温になりがちだが、換気扇程度でエアコンがないという職場もいまだに多いようで、そこで倒れ、最終的に退職したという話がよくある。油や高温に強い厨房用エアコンの設置は価格やスペースなどによる難易度が高いためか、「お店が何もしてくれなかった」というエピソードも多いが、せめて水分摂取や休憩の配慮はしておきたい。  同じようなエアコンがないことによる熱中症は、普通のオフィスでも発生し、エアコンが壊れた夏場に熱中症になったという、事務職のシニアの話も少なくない。そのため、オフィスワークだから安心とは言えない。  ここまでは、「ありそうな話」と感じるかもしれない。しかし、「まさかそんな」と思うような熱中症の例も、複数のシニアから聞いているので、次はそうしたエピソードを紹介しよう。

まさかの冷房禁止で熱中症に…

 冷房があるのにつけられず、熱中症になってしまったシニアの話も何件もある。別に昭和の根性論に支配されたような経営トップが、頑なに冷房の使用を認めなかったといった話ではない。  なんと、介護施設の入居者や病院の入院患者が「寒いから冷房をつけるな」と要望したことで、介護職員や看護師が熱中症に倒れたというのだ。  しかしこれは、「寒いから冷房をつけるな」と言った高齢患者自身が、感覚だけでなく、体温の調節機能も低下して、介護職員や看護師と一緒に熱中症になる危険があるため、要望に応えるのではなく、適切な温度管理を優先すべき話である。  労災事故と言えるような話もある。工場でダクトからいきなり熱風が吹き出て、火傷を負うような高温ではなかったものの、短い時間で熱中症となって意識を失ったという話だ。ここまでの話になると、熱中症とは関係なく重大事故と言えるような話だが、「他の事故の際に、熱中症を発症してしまう」ということも考えられる。  例えば、夏の日中に屋外で怪我をして動けなくなることで、熱中症になることもある。また、事故とまではいえなくとも、熱中症以外の体調不良で動けなくなったことがきっかけで熱中症になることや、炎天下で道に迷ったといったトラブルから熱中症になることもないとは言えない。  社内の事故ではない外でのトラブルがきっかけの熱中症は、さすがに企業の責任ではないが、6月に義務化される報告体制などを整えておくことで、どんな場面で熱中症になったとしても、従業員は安心しやすく、また、迅速な対応が取りやすくなる。どんな職場でも熱中症に関係ないと思わず、対策をしておきたい。
50代以上のシニアに特化した転職支援を提供する「シニアジョブ」代表取締役。大学在学中に仲間を募り、シニアジョブの前身となる会社を設立。2014年8月、シニアジョブ設立。当初はIT会社を設立したが、シニア転職の難しさを目の当たりにし、シニアの支援をライフワークとすることを誓う。シニアの転職・キャリアプラン、シニア採用等のテーマで連載・寄稿中
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