「父のキゲンは、巨人が決めている」読売ジャイアンツの“父の日ツイート”が炎上した本当の理由
家庭で育まれてきた「野球はクソ」という感覚
拙著では、現代SNSでしばしば見られる「野球部はクソ」という見方を取り上げたが、SNS登場以前から当時の子ども世代のあいだで「我が物顔でのさばる巨人戦=野球はクソ」という感覚が、静かに共有されていたとも言える。いわば、プロ野球中継という戦後日本的「男らしさ」を象徴するコンテンツを好む「父」と、ドラマ・アニメ・バラエティ番組など必ずしも「男らしさ」にこだわらない新しいタイプの娯楽を求める――象徴的な意味での――「娘」の対立が、リビングルームの水面下で起こっていたのだ。
しかし2000年代後半以降、さまざまな外部環境の変化により「巨人戦」は以前のように我が物顔でメディア空間にのさばることがなくなった。娯楽の中心はテレビからインターネットへと移り、巨人戦の視聴率も低下、また多チャンネル化によって19〜21時の放送枠が守られ、中継が延長する場合はサブチャンネルに移行するなど、テレビ=マスメディアが見せつける「巨人戦の権力」は大きく衰退した。
’17年、野球の世界大会「WBC」の開催期間中、日本戦中継の大幅な延長により『カルテット』(坂元裕二脚本)というドラマの放映予定時刻が1時間以上繰り下げられる一幕があった。このときもドラマファンの激しい怨嗟の声がSNS上で吹き荒れた。今もWBCが開催されたり、メジャーリーグのポストシーズンに大谷翔平が出場したりと、大きな野球関係イベントがある際には「野球がテレビをジャックする」という状況が時折現れ、「家族間のトラウマ」が人々のあいだでフラッシュバックすることはある。しかし、その火種は20年前に比べ相当に小さくなっていると考えられる。
だが、まだ見過ごせない問題がある。「#父とジャイアンツ」への反応のなかでもとりわけ印象的だったのが、「父が巨人戦を観ながら、上から目線で選手を批評しているのが嫌だった」という声だ。こうした態度は、今なお野球ファンの間で珍しくない。
編集者・ライター。1986年、神奈川県生まれ。一橋大学社会学部社会学科卒、同大学院社会学研究科修士課程中退。批評誌「PLANETS」編集部、株式会社LIG広報を経て独立。2025年3月に初の著書となる『文化系のための野球入門 「野球部はクソ」を解剖する』(光文社新書)を刊行。現在は「Tarzan」などで身体・文化に関する取材を行いつつ、企業PRにも携わる。クラブチームExodus Baseball Club代表。
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