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「もともと細身だった」フルート奏者の女性が「ベンチプレスで110キロ」挙げるまで 「生き方を変えられてよかった」

ベンチプレスの公式記録は「110キロ」

上原麻依

猛烈な勢いで身体が出来上がっていった

 フルートがやりたいという純粋な気持ちを抱えながらも、要所で回り道をしてきた人生。音楽で生計を立てることを決意した上原さんを待ち受けていたのは、不幸にもコロナ禍だった。 「自宅にいる時間が増えていくにつれて、年齢的にも体型が気になるようになりました。もともと細身でしたが、10キロ近く太ってしまって。たまたま知り合ったパーソナルトレーナーの方に誘われて、トレーニングを始めました」  最初は自重トレーニングから始め、1年で体重を戻すと、上原さんの探究心に火がついた。 「より高負荷のトレーニングをしている人たちに混ざると、とても上手に褒めてくれるのでついその気になってしまって、ジムに通い始めて3ヶ月で地区大会、その2ヶ月後に全国大会に出場するほどのめり込んでいました。フルギアベンチプレスという種目で、公式記録としては110キロを出しています」

夜職のお客さんが遠征費用をカンパ

 フルート奏者として、またレッスン講師として、音楽だけで生活することを希望した上原さん。だが現実には、水商売をして補填をしなければならないこともあったという。 「最初は、音楽で生きていく夢を成り立たせるために始めた夜職でした。けれども、お客さんやキャストの子たちが本当にいい人で、思いがけず助けられる場面が多くありました。たとえば、ベンチプレスの大会に出る場合、開催場所によっては何十万円もの費用が必要なこともあるのですが、それをカンパしてくれたり。みんな酔っ払いながらも『頑張りなよ〜』と暖かく送り出してくれて、嬉しかったですね」  上原さんは“やりたい”を見つけたら猪突猛進。そのような自身の生き方について、こんなポリシーがある。 「人生は一度きりだから、やりたいことをやりたいんです。本当は音楽一本で生きたいのに、それが叶わなくて社会人として働くことを選びました。どこかで、『これに興味があるんだ、やりたくて働いているんだ』と自分を騙しながら働いていたように思います。でもメンタルを崩して、やりたいことをやらないでいると、人は壊れることを知りました。生き方を変えられてよかったと心から思います」 =====  音楽などの芸術を収入につなげるのは至難。思いに蓋をしながら生きていくうち、内なる”やりたい”にさえ耳を傾けられずに大人になっていく。大人になる道を蹴ってたくましく生きる上原さんは、そのひたむきさによって自らの運命を手繰り寄せる。縁を大切に生きる彼女なりの処世術が光り輝く。 <取材・文/黒島暁生>
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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