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タイの“賄賂”事情が変化したワケ。カネでもみ消しも「今は交通違反がせいぜい」

空港で中国人から賄賂を取っていたことがバレた

バンコク

20年くらい前のバンコクのイミグレ。この頃はそんなに人も多くなく、手続きに時間もかからなかった

 観光と移住を問わず外国人が公務員と関わるとなると、多くは日本でいう入国管理、タイではイミグレーション警察になる。タイのイミグレもまた賄賂を取らないことをスローガンに、クリーンな業務を前面に押し出している。  これは2018年ごろの事件がきっかけだ。パンデミック以前は中国人観光客の訪タイが日本人のそれの10倍超である年間1000万人超になっていた。そのため、空港は大混雑状態で、入国審査官が中国人入国者から300バーツ(約1400円)を徴収し、優先的に入国審査を受けさせるという便宜を図っていた。これがタイと中国のマスコミにバレてしまい、当時のイミグレ警察長官が賄賂を一切禁止したのだ。  ほかにもビザの延長などの手続きもイミグレ係官の業務のひとつにある。タイは観光ビザであっても今は日本よりも発給のハードルが高い印象だ。長期滞在の外国人はタイのビザでみんな苦労している。  このビザでも基本的には賄賂は受け取らないということが原則だ。しかし、職員らも考えたもので、禁止されているのは申請者からの賄賂なのだから、代行業者から審査の優先権として手数料を取れば、それは賄賂ではないという解釈を編み出している。これもまたよくないかというと、筆者個人はそうは思えない。
バンコクのイミグレ

バンコクのイミグレは毎日人が多く、優先権を買えるなら買いたい人も多い

 まず、バンコク都以外のイミグレーション事務所の大半はそもそも利用者があまりいないので、個人で行こうが代行を頼もうがほとんど変わらない。一方、長期滞在外国人の大半がバンコクで暮らすこともあって、バンコク管轄の事務所には連日数百人はビザ手続きに訪れる。  こうなると、開場の朝8時ごろに来て番号札をもらっても、終わるのは19時くらい。それであれば業者に高くとも手数料を払って優先的に手続きしたほうが、圧倒的にコストパフォーマンスが高いのは明らかだ。  いずれにしても、これもまた警察の賄賂同様に個々で懐に入れてはおらず、上納なのか、みんなで分けていると見られる(これは裏が取れなかったのであくまで筆者推測)。というよりも、他県のイミグレと比較して業務量が膨大すぎるので、バンコクのイミグレ職員もそれくらいもらわないとやってられないという気持ちも理解できる。

会社経営でも賄賂が必要な場面も

 ベトナムの首都ハノイで日系企業の支社長をする友人に聞くと、ベトナムの役所はもっとわかりやすいらしい。なんでもかんでも賄賂がないと役所の書類が出ないのだとか。そのため、最初から領収書の出ない使途不明金枠を大きく持っていないと、年度末に辻褄が合わなくなってくるという。  タイはだいぶクリーンになっているので、そこまでではない。あくまでも「それほど」でないだけで、実際に税務署などでも書類を作るのに“袖の下”を要求されることもあるようだ。  知人の会社はバンコクのある地区で登記されているので、その管轄税務署に行くわけだが、「申請していた書類がなかなか発行されなくて、経理担当ではなく社長の自分自身が足を運んだら、結局はお金の要求でした」という。  ただ、いつものことではなく、何年も経営してきて突然だったので、知人はびっくり。SNSを恐れあからさまでないほうがいいという時代になっていることはわかっているので、現金ではなく、たとえば日本でいう金券のようななにか換金できるものを渡すべきなのか、と知人は気を遣った。結局考えてもわからないので、もう一度足を運び、ストレートに尋ねると「うん、現金で」といわれたという。  職員も悪びれる様子もなかったので、知人はどういうことなのかと訊くと、税務署のノルマ的なものだということで、職員は知人に向かって「なんで○○区で会社設立しなかった?」といわれた。  その区は昔から日本の大手企業などが登記する地域で、つまりはその税務署は税収が多く、いちいちこういった小さい賄賂の要求はない、ということらしい。

タイの賄賂は制度化すればきっとみんな利用する

パタヤ

パタヤなど外国人が多いイミグレ事務所も諸々の処理に時間がかかる

 東南アジアの多くの国、特にタイは「緩いからこそ好きだ」という人は少なくない。もちろん国として、また国民の利益として法令とモラルがしっかりとし、誰にも平等である国になっていくべきであることはわかる。でも、いい加減だったタイがやっぱりよかったとも思うのだ。  賄賂も、殺人など悪質な事件のもみ消しは被害者の不利益になるので絶対によくない。また、賄賂を払うまで正当な請求に対応してくれないのもいけない。しかし、本記事の事例のほとんどのように優先のためであれば、あってもいいのではないか。  もしそれらが制度化されて、ちゃんと正式に料金体系が組まれたらどうだろう。結局、観光地などにある「外国人料金」と同じで、正式に請求されたら「なんだかなあ」とは思いつつ利用すると思う。 <取材・文・撮影/髙田胤臣>
髙田胤臣(たかだたねおみ)。タイ在住ライター。初訪タイ98年、移住2002年9月~。著書に彩図社「裏の歩き方」シリーズ、晶文社「亜細亜熱帯怪談」「タイ飯、沼」、光文社新書「だからタイはおもしろい」などのほか、電子書籍をAmazon kindleより自己出版。YouTube「バンコク・シーンsince1998│髙田胤臣」でも動画を公開中
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