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「親を介護で殺したくない」年700件の相談を受ける専門家が語る“愛情が強いほど虐待に走る”介護の罠

企業で出会った虐待予備軍の会社員たち

自身の車いす生活が福祉に興味を持ったきっかけ

転機となったのは2013年。ある企業から「社員に介護や認知症の話をしてほしい」と依頼されたことだった。 「最初は、興味を持ってもらえるのか不安でした。意外にも皆さん、真剣に聞いてくださいました。中には『明日にでも仕事を辞めて親の介護をしなければ』と思い詰めている方もいて、まさに『虐待予備軍』だと感じました。この方々に、仕事を辞めて、自分が親を直接介護する以外の選択肢を伝えたいと思いました」 そういった思いから、追い込まれてからの相談を待っているのではなく、企業に出向いて、早期に情報提供しようと思った。 「専門職は『転倒リスクをゼロにする』ような、過保護な介護はしません。本人が望む生活を尊重してサポートします。でも、一生懸命な家族ほど『危険を排除したい』と考える。そのズレが『あのヘルパーは使えない』『ケアマネが言うことを聞かない』という不満を生みます。こうした悪循環に入ってからでは、手遅れなんです」

「仕事ができる人」ほど、介護で失敗する理由

川内氏によると、仕事ができる人ほど介護で失敗しやすいという。 「仕事は『攻めの戦略』で成果を上げます。でも、介護は違う。症状が進行し、できることが減り、最終的には別れがくる。介護は『撤退戦』なんです。ところが、優秀なビジネスパーソンほど、仕事の成功法則を介護に持ち込んでしまう。徹底的に考えていった末、親の生活を制限するようになります」 認知症の進行を防ごうとして、ドリルをやらせる・日記を書かせるなど、まるでスパルタ教育のような状態になってしまうという。 「80代後半の人に、そんな制限を課すことが、本当にその人のためになるでしょうか。老化を受け入れられず、『元の状態に戻そう』と介護に熱中してしまう。愛情が故でも、親は当然嫌がります。そして、親子げんかになり、うまくいかないから、虐待につながってしまうんです。疲弊してしまい『親を合法的に殺す方法はないか』と相談してくる人もいました」
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企業だからこそできる「強制力」のある支援
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ライター・原作者・あいである広場編集長。立教大学経済学部経営学科卒。「認知症」「介護虐待」「障害者支援」「マイノリティ問題」など、多くの人が見ないようにする社会課題を中心に取材する。文春オンライン・週刊プレイボーイ・LIFULL介護などで連載・寄稿中。『認知症が見る世界』(竹書房・2023年)原作者

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