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「親を介護で殺したくない」年700件の相談を受ける専門家が語る“愛情が強いほど虐待に走る”介護の罠

企業だからこそできる「強制力」のある支援

川内氏は企業の役割を重視している。 「地域の掲示板を見て、『認知症講座があるから家族で行こう』となる家庭はありません。でも、会社が『働くために必須のスキル』として発信すれば、最初はいやいやでも参加してくださるのです」 実際に、2024年5月に改正された「育児・介護休業法」では、法人に対し、社内規程の見直しや従業員への周知、両立支援制度の整備に関する義務が追加・拡大された。事前周知の機会を活用し、全従業員に介護の動画を見せる企業では、相談件数が大幅に増加した。 「『動画を見てびっくりしました。自分が思っていた介護と全然違うんですね。今のうちに考えを整理したいから相談に来ました』という30代、40代の相談者が増えています」

部下に相談されたときに絶対にやってはいけないこととは?

部下から介護の相談を受けた管理職が陥りがちな失敗もある。 「『実家でテレワークしたらいい』 『親のそばにいることが親孝行』『大変だから少し休んで』。親思いの上司ほど、こうした『善意のアドバイス』をしてしまいます。でも、これらの言葉が、かえって部下を追い詰めるんです」 仕事と介護の両立の施策として、テレワークが有効だと、安易に考えられがちだ。しかし、コロナ禍の際は、テレワークで、親の見守りをしようとし、うつになる人が増えたという。親が弱っていく姿を間近で見ることで、不安になる。見て知ったところで専門職でない限り、解決策はないと川内氏は断言する。 また、休むことを勧められることを「戦力外通告」と受け止める社員もいる。 正しい対応は、まず話を聞くこと。そして、地域包括支援センターへの相談を勧めることだという。 「課題解決志向で的確なアドバイスをしようとしがちですが、介護は人によって状況が全く違います。話を聞く役に徹して、『よく言ってくれた、ありがとう』と伝えることが大切です」
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事前相談で虐待を防いだ成功例
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ライター・原作者・あいである広場編集長。立教大学経済学部経営学科卒。「認知症」「介護虐待」「障害者支援」「マイノリティ問題」など、多くの人が見ないようにする社会課題を中心に取材する。文春オンライン・週刊プレイボーイ・LIFULL介護などで連載・寄稿中。『認知症が見る世界』(竹書房・2023年)原作者

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https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/index.html