ニュース

国際ロマンス詐欺の標的になった75歳・認知症の母。300万円を送金したことも忘れ…「そんな話、知らない」

“真美子夫人”に承認欲求がくすぐられ…

老親を狙う[国際ロマンス詐欺]の恐怖 認知症は、前頭葉の機能低下によって不安や焦りを抑えられず、周囲から見ると“頑固”に見える症状が表れることも多い。吉川道子さん(仮名・38歳)の父もその典型例だ。 「父は数年前に母を亡くして以降、実家で一人暮らし。最近、初期段階の認知症と診断されても、『俺はボケ老人じゃねえ』と、こちらが何を言っても、突っぱねる人でした」  道子さんは週に数回、家事の手伝いに通っていたが、夜になれば父は一人。それに、「衰えた存在として扱われたくない」という自尊心も強い。  そんな弱みに入り込んだのが「大谷真美子夫人」を名乗る人物から、携帯電話に届いたショートメッセージだった。 「『メディアの騒がしさに疲れてしまった』『あなたのような日本の優しい人と話がしたい』。父にとっては、“まだ自分は特別な存在だ”と思わせてくれる言葉だったのでは」  やりとりが始まると、父のスマホには本人を名乗る写真や短い動画が次々と届くようになった。今思えば、ネット上で見かける画像や、合成だとわかるものばかりだった。  道子さんが「100%詐欺」と指摘しても、父は耳を貸さない。認知症によって、違和感に立ち止まる力が弱っていたのだ。わずか2週間のやりとりで、父は完全に手玉に取られた。  それから家族、近所の人も交えて説得したが、「極秘パーティ」への招待という甘い罠が仕掛けられ、「保証金として200万円が必要だと言われたそうで、父は誰にも相談することなく、定期預金を解約して振り込んでしまいました」。  約束の日。父は普段着ない上等な服を引っ張り出し、一人で都内の高級ホテルへ向かった。だが、約束の時間を過ぎても“真美子夫人”は現れない。  フロントで名前を告げた瞬間、返ってきたのは「そのような予定はございません」という非情な現実だった。

詐欺師がグルになって認知症者をからめ捕る

老親を狙う[国際ロマンス詐欺]の恐怖

B氏は、被害者たちの情報が記された闇のリストを悪びれもせず見せてきた。対象の素性が細かく記されている

 なぜ、詐欺師はここまで的確に認知症高齢者を狙えるのか。かつて特殊詐欺グループで「かけ子」をしていた元半グレのB氏は、その実態をこう言い切る。 「正直、認知症の年寄りを騙すこと自体は難しくない。俺たちが一番力を入れるのは、リスト集めです。日本には、それ専門の実働部隊がいる。一人暮らしで、物忘れが始まっていて、家族と疎遠。条件が揃う高齢者を調べ上げる」  その情報源は、決して裏社会だけに限られない。 「カネに困った介護士や、病院の事務員から情報が漏れることもある。一番手っ取り早いのは、認知症クリニックの近くの喫茶店。店主と常連の会話を聞いていれば、『あの人は独り身』『家族が全然来ない』なんて話が聞き出せる」  こうして集められたリストは、国内で保管・更新され、“使える名簿”として精査される。そして、実際に騙すのは海外にいる「かけ子」だ。 「日本にいると足がつくから、海外在住のかけ子が、SNSやメッセージアプリで仕掛ける。日本側はリスト管理と指示出しだけです」  この惨状に、元埼玉県警捜査一課刑事で、デジタル犯罪対策に詳しい佐々木成三氏は、危機感をにじませている。 「『何してるの?』といった単純な日常会話を何度も重ねることで、特に認知機能が衰えた方は信じ込んでしまう。さらに顔出しナシのビデオ通話を使い、『相手は実在する』と錯覚させるのです」  認知症高齢者の場合、その“効き目”は格段に強まる。 「一度信じてしまうと、『あの人は本物だ』と強く言い張る。その場合は、相手が話した嘘をひとつひとつ剥がして突きつけるしか対処法がないのです」  認知症が静かに進行するように詐欺もゆっくりと、だが確実に進行している。 【犯罪評論家・佐々木成三氏】 元埼玉県警捜査一課刑事。デジタル捜査のプロとして活躍。現在は犯罪コメンテーターとして、最新の詐欺手口や防犯対策を解説する 取材・文/アケミン 吉沢さりぃ イラスト/板垣雅也
1
2