子供の部分を残すために、強烈な大人の部分もつくる
──家族を養っていくために、本業の建設業を続けている。
吉田:親父が蒸発してからは収入がゼロで母親がパートで稼いだお金でやりくりして、駄菓子がご飯代わりだったこともありました。そういう思いはさせたくないし、男親として家族の生活は困らせない圧倒的な経済力は最低条件だと思う。自分のような大人になりきれない人間が、子供の部分を残すためには強烈な大人の部分もつくらないといけないと自覚しているんですよ。

──大人の部分とは?
吉田:稼いで、子の命を守っていくこと。だから建設業の社長として商談するときはスーツを着て、車も乗り換える。“大人のコスプレ”をして、スイッチを切り替えている感覚ですね。
──吉田家の家訓のようなものはあるんですか。
吉田:ないねえ(笑)。ただ、「親の人生が子供のために犠牲になる」のは違うと思う。僕の姿が子供たちにどう映っているかはわからないけど、「人生で自分の好きなことを見つけたら、めちゃくちゃ楽しく生きられるんだ」と感じてもらえたら嬉しい。
──そんな人生を懸けてきた洞窟探検において、一番の学びとはどういうものですか。
吉田:洞窟探検は体力も重要ですが、それよりも「メンタルの骨格」が大事なんです。洞窟という閉鎖空間で自分や仲間をコントロールすることは本当に難しい。恐怖を感じて、パニックになった瞬間に生存率はゼロになる。だから、究極の状況のなかでも、冷静沈着に判断できるかどうかですべてが決まる。
──探検する際、「死なないためのリスクマネジメント」を念頭に置いていることは意外でした。
吉田:生きているからこそ説得力があるし、次の探検にも出かけられる。だから、「勇気ある撤退」ではなく、「怖いなら帰ればいい」という考え。無理して一度では行ききらず、何度も通いながら少しずつ前進して、洞窟の全貌を明らかにしていくスタイル。16年間かけて調査した洞窟もあります(笑)。
──想像以上に骨が折れる作業ですね……。
吉田:好奇心が恐怖心を上回ってしまう瞬間が、最も危険なんです。特に水中の極端な狭隘(きょうあい)部では、ヘッドライトを消し「メンタルの視野」を狭くして、余計なことを考えずに手探りで目の前の動作だけに集中する。これまで首以外の骨がすべて折れて、水中洞窟で遭難してきましたけど、生きて帰ることへの執着心は人一倍あると思います。
──その結果、’24年には植村直己冒険賞を受賞されました。
吉田:受賞の連絡をもらったときは驚きました。僕は単純に世界にある未知未踏の地に行っているだけで、自分には関係のない賞だと思っていたんですよ。勘違いされるんですけど、別に洞窟が好きなわけじゃないんですよ。だって、洞窟の中は、「痛い・狭い・苦しい」という人間が嫌だと思うものが揃っている空間じゃないですか。
──嫌なのにやめない理由は?
吉田:ときめくものが洞窟以外に見つかっていないから。それと、「日本人で誰よりも多く未踏の空間に入った人間」ということは誇れる結果かもしれない。