なぜ歯ぎしりをするのか? 最大の原因は「ストレス」

歯ぎしりによって、歯がすり減って凹凸がなくなっている
では、なぜ人は歯ぎしりをしてしまうのでしょうか。歯ぎしりの原因は一つではありませんが、その中でも大きな要因として考えられているのがストレスです。仕事のプレッシャーや人間関係の悩み。将来への不安。現代人は日々さまざまなストレスにさらされています。日中は気を張って過ごしていても、眠っている間は無意識です。脳が眠っていても、体はストレスの影響を受け続けています。
歯ぎしりや食いしばりはストレス発散の役割を担っているのではないかという説もあります。つまり、本人は全く自覚がなくても、寝ている間に歯を強く噛み締めることで、無意識のうちにストレスを処理しようとしている可能性があるのです。そのため、「歯ぎしりをやめよう」と意識するだけでは改善はなかなか難しいものです。むしろ問題なのは、本人が気づかないまま何年も続いてしまうことです。
実際に歯科医院でも、仕事が忙しい管理職や経営者、責任ある立場で働く人ほど、歯のすり減りや食いしばりの痕跡が見られることがあります。頑張る人ほど歯を失うリスクを抱えている。そう考えると、歯ぎしりは単なる癖ではなく、現代人のストレス社会を映し出すサインなのかもしれません。
歯ぎしりや食いしばりの厄介なところは、本人に自覚がないことです。家族からの指摘で歯ぎしりに気がついた患者さんもいますが、食いしばりは音がしないのでなかなかご自身では気づけません。知覚過敏や、歯の根元部分の欠けなど、はっきりとわかる状態でないと気がつきづらいのです。実際、「歯ぎしりなんてしたことがありません」と話していた患者さんでも、お口の中を診ると明らかな痕跡が見つかることは珍しくありません。
歯科医はお口全体から「夜間の犯行の証拠」を探すプロでもあります。読者の皆さんも、今すぐインカメラや洗面所の鏡で、ご自身のお口の中を“ガサ入れ”してみてください。以下のような「足跡」が残っていませんか?
・歯の先端が平ら
本来丸みのある部分が削れていたりすると、長期間にわたり強い力が加わっていた可能性があります。
・白い一本線(咬合線)
頬の内側に横一線の白い筋。これは歯と頬が繰り返し擦れることでできる圧痕で、「昼夜問わず、歯を噛みしめ続けている」無言のサインです。
・ギザギザの舌
舌のフチが波打ってギザギザしている人。これも舌が歯にギチギチに押し付けられ続けられている証拠で、食いしばりが強い人によく見られます。
・謎の骨のコブ(骨隆起)
歯ぐきの近くに、ボコッと硬いコブはありませんか?強い力に耐えかねた顎の骨が、生き残るために独自にビルドアップしてしまったマッチョな骨の塊です。
また、むし歯がないのに詰め物や被せ物が頻繁に外れたり欠けたりする場合も、歯ぎしりが背景に隠れていることがあります。患者さん自身は気づいていなくても、お口の中には日々の痕跡が残っています。歯科医院では、こうした小さなサインから歯ぎしりや食いしばりの有無を推測することができるのです。特に、こうしたサインは本人が気づく前に進行していることも多く、定期検診で初めて指摘されるケースも少なくありません。
今すぐできる3つの対策
歯ぎしりや食いしばりは、意識だけで完全になくせるものではありません。しかし、歯へのダメージを減らすためにできることはあります。
①日中の食いしばりを意識する
実は上下の歯は、「普段から接触している状態」が正常ではありません。会話や食事をしていないとき、上下の歯の間にはわずかな隙間があるのが自然な状態です。しかし、仕事中やスマートフォンを見ているとき、運転中などに無意識で歯を接触させている人は少なくありません。
このような状態は「歯列接触癖(TCH)」と呼ばれ、歯や顎の筋肉に負担をかける原因になります。まずは日中、「今、歯が当たっていないかな?」と意識するだけでも大きな一歩になります。日中の歯や顎の負担を軽くすることから始めてみましょう。
②睡眠環境を見直す
歯ぎしりや食いしばりにはストレスや睡眠の質が関係していると考えられています。過度な飲酒、睡眠不足、疲労の蓄積は、歯ぎしりを悪化させる要因になることがあります。忙しい毎日を送る人ほど難しいかもしれませんが、寝る直前までスマートフォンを見る習慣を見直したり、十分な睡眠時間を確保したりすることも大切です。歯を守るためには、お口だけでなく生活習慣全体を整える視点も必要なのです。
また、睡眠時の姿勢や寝具の影響が指摘されることもありますが、まずは睡眠環境全体を整えることが大切です。照明の明るさを見直す、アロマを用いてリラックスをして寝るのも効果的かもしれません。
③ナイトガード(マウスピース)を活用する
歯ぎしりによる数万〜数十万円の破壊から歯を守る、最強の防具。それが歯科医院で作製する「ナイトガード(マウスピース)」です。「オーダーメイドだし高そう……」と思われるかもしれませんが、実は保険適用で3,000円〜5,000円程度(3割負担の場合)で作れます。数万円〜数十万円のセラミックを粉砕されるリスクを考えれば、これほど投資対効果の高い「盾」はありません。最もコスパの良い自己投資と言えるでしょう。
歯ぎしりは「音」ではなく「歯の寿命」の問題
歯ぎしりや、食いしばりの怖い所は、歯を割るほどの激しい力が無意識にかかってしまうところです。せっかくむし歯や歯周病を防げていても、歯ぎしりによって歯を失ってしまえば、その努力が十分に報われないこともあります。
ストレス社会を生き抜くビジネスパーソンにとって、ストレスをゼロにするのは不可能です。あなたの歯のすり減りは、日中必死に戦っている勲章のようなものかもしれません。しかし、代わりに大切な歯や財産(治療費)を失ってしまっては元も子もありません。
朝起きたときのアゴのだるさは、体が発している「もう限界!」のサインです。ぜひ一度、その戦いの痕跡を見せに、歯科医院にへ足を運んでみてくださいね。
<文/野尻真里>
一般診療と訪問診療を行いながら、予防歯科の啓発・普及に取り組んでいる歯科医師です。「一生涯、生まれ持った自分の歯で健康にかつ笑顔で暮らせる社会の実現」を目標にメディアで発信をしています。X(旧Twitter):
@nojirimari