更新日:2026年07月13日 07:40
ライフ

「シート倒すな!」突然ブチ切れた20代男性客に機内は騒然。「普通っぽい見た目だったのに…」/機内トラブルは世界で3年2.7倍。じつは“倒しても後ろが狭くならない”座席も登場していた

何も起こらないまま着陸

 自分のことを言っているとBさんもわかったのか、2人を睨んだが一瞬で視線を元に戻したとか。 「見た目のヤバさに気づいたんでしょうね。Aさんに対して常軌を逸したことをしていた割に普通っぽい見た目でしたから」  ここで新たなバトル勃発という展開にはならず、ヤカラ系の若者2人もそこまで興味はなかったのか、これ以上Bさんに関して話すことはなかった。Aさんとの間にも特に何も起こらず、そのまま着陸してしまったそうだ。

客室乗務員の対応は正しいか

機内トラブル

※画像は生成AIによるイメージです

「10時間以上もシートを倒せなかったので相当辛かったと思います。私に注意できる勇気があればよかったのですが、さすがに矛先が自分に向いてしまうのが怖かったので……。それと気になったのは客室乗務員の対応です。Bさんには一度軽く注意しただけ。Aさんが再び相談した様子はなかったため、それもあると思いますが日系のエアラインなら対応はもっと違ったような気がします」  いずれにしてもエコノミークラスでの長時間フライトでシート固定はキツすぎる。今回のケースのようなトラブルは滅多にないと思うが、万が一のリスクが気になれば、最後方の列にするなど対策を考えたほうがよさそうだ。 <TEXT/トシタカマサ> *  *  *

■リクライニングは「マナー違反」か「機能」か

米村さんが目撃したBさんの振る舞いは論外として、そもそもリクライニング自体は倒していいものなのか。この点、じつは航空会社自身がわかりやすい形で答えを出しています。 たとえば全日本空輸(ANA)は、国際線B777-300ERやB787-8のエコノミークラスの一部で、背もたれが後ろに倒れず、代わりに座面が前方にスライドする「Fixed Back Shell(フィックスト・バック・シェル)」という仕様を導入しています。倒しても後ろの席のスペースを一切奪わない設計で、公式サイトでも「シートを倒さずリクライニングできるFixed Back Shellスタイルを採用。後部座席を気にすることなくリクライニングが可能に」と説明されています(出典:ANA公式サイト エコノミークラス シート・座席一覧(国際線))。 言い換えれば、航空会社側は「後ろの人に気を遣わずに倒せる」ことをわざわざセールスポイントとして掲げているわけです。通常のリクライニングシートについても、その裏には「本来、倒すことに気兼ねなど要らないはずのもの」という前提があるとみて、まず間違いありません。 鉄道会社の立場も基本的には同じです。JR北海道の公式FAQは「急に倒すと、後ろのお客様が驚いてしまう場合や、深く倒すと圧迫感から、不快に感じるお客様がいらっしゃいます。後ろの方へ確認していただくようご協力をお願いします」(出典:JR北海道 よくあるご質問)と、あくまで“配慮のお願い”のレベル。「倒すな」というルールは、どこにも存在しません。 離着陸時など「安全阻害行為等の禁止事項」で明確にNGとされているタイミングを除けば、水平飛行中に倒すこと自体は乗客に認められた使い方であり、原則としてルール違反ではないのです。“倒すな”と後ろから命令する権利は、そもそも他の乗客にはないわけです。

■世界でも、日本でも起きている機内“沸騰”

とはいえ、感情の問題は別。冒頭で触れたIATAの数字をもう少し細かく見てみると―― ・2021年:835便に1件 ・2022年:568便に1件(2021年比 約1.5倍) ・2023年:355便に1件(2021年比 約2.4倍) ・2024年:307便に1件(2021年比 約2.7倍) と、機内迷惑行為の発生率はきれいな右肩上がりで悪化しています(出典:IATA Unruly Passengers)。世界140社超の航空会社から集まった9万件を超える報告に基づく数字で、内訳の上位は「乗務員の指示に従わない」「機内や洗面所での喫煙・電子たばこ」「暴言」「シートベルト着用指示の無視」「持参アルコールの摂取」など。 そして、日本の空でも他人事ではありません。2020年にはコロナ禍の国内線機内で、マスク着用を求められた乗客が客室乗務員に暴行を加え、機を新潟空港に緊急着陸させる事件が発生。この乗客は威力業務妨害や傷害などの罪に問われ、大阪地裁は2022年12月に懲役2年執行猶予4年の有罪判決、翌2023年10月には大阪高裁も控訴を棄却しています。「客室乗務員に手を出す」「機を緊急着陸させるほど騒ぐ」というレベルまでいけば、日本の裁判所はきちんと刑事責任を認める、ということです。 もちろん、Bさんの「シート倒すな!」は言葉と足だけで済み、事件化はしていません。ただ、あと一歩踏み込めば――たとえば米村さんに直接手を出す、乗務員の制止に従わずさらに暴れる――そうなれば同じ航空法や刑法の暴行罪、業務妨害罪の射程内に一気に入ってきます。「たかがシート倒された」で押し切るには、ずいぶん重たいカードがすぐ隣に積まれている場面だった、ということでもあります。

■結局、大人ができること

米村さんが最後に語っていた「私に注意できる勇気があればよかった」という言葉は、正直な感想として胸に残ります。ただ、乗務員が一度注意しても収まらないほどキレている相手に、一般の乗客がひとりで立ち向かうのは、現実にはかなり難しい。そんなときは無理をせず、乗務員をもう一度呼ぶ、離れた席への移動を相談する――といった“乗務員を通す”対応が、いちばん安全で確実なようです。 見た目は普通、でも中身は常軌を逸していた若い日本人男性。10時間以上のフライトを、シートも倒さず、恨みを募らせながら過ごした彼が、いま何を思っているのかはわかりません。ただ、リクライニングというたった一つのボタンをめぐって、ここまで人は沸騰できるのだ――ということだけは、覚えておいて損はなさそうです。 <再構成/日刊SPA!編集部>
ビジネスや旅行、サブカルなど幅広いジャンルを扱うフリーライター。リサーチャーとしても活動しており、大好物は一般男女のスカッと話やトンデモエピソード。4年前から東京と地方の二拠点生活を満喫中。
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